クラフトビール醸造所の開業にかかる初期投資の目安は?
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- 2024.06.14
- 2024.11.01
豊富な種類から選ぶ楽しさがあるクラフトビールの人気は、今も健在です。
そんなクラフトビールの醸造所を立ち上げたいとお考えの方も、多いのではないでしょうか。
開業を検討するうえで、市場動向や初期投資額の把握は外せませんよね。
本記事では、開業時にかかる初期投資やランニングコストの目安、コストの抑え方などをご紹介します。
「開業を計画する際に、初期投資の目安を把握したい」という方は、ぜひ最後までご覧ください。
【目次】
- クラフトビールの定義とは
- クラフトビールの市場動向
- クラフトビールの製造・販売を始める際に必要な初期投資
- クラフトビールの製造・販売にかかるランニングコスト
- クラフトビール醸造所の開業にかかるコストを抑える方法
- クラフトビール醸造所の開業に必要な資金を調達する方法
- クラフトビールの醸造所を開業する際に必要な初期投資の目安は約6,000万円
クラフトビールの定義とは
そもそもクラフトビールとは、小規模な醸造所で作られる、種類が多様で個性的なビールを指します。
「地ビール」ともよばれるクラフトビールの主な原材料は、モルト(麦芽)・ホップ・水・酵母です。
原材料にくわえて、フルーツや紅茶、スパイスなど、さまざまな副原料を組み合わせ、さらに品質や風味、醸造技術を工夫すると、オリジナルのビールを作ることができます。
なお、クラフトビールを作る小規模な醸造所を「マイクロブルワリー」または「クラフトブルワリー」といいます。
クラフトビールの市場動向
クラフトビール市場は、以前にも増して確固たる地位を築きつつあり、多彩な製品を販売するクラフトビールの醸造所が増えています。
市場規模は、2024年に世界のクラフトビール総消費量が65億2,000万L、2029年までに100億3,000万Lにまで到達するといわれています。
また、2024~2029年までの5年間で推測されているクラフトビール市場のCAGR(年平均成長率)は、9%です。
ビール大手4社のビール系飲料の販売数量が、前年同期を1%下回ったにもかかわらず、クラフトビールは、前年同期の総出荷量を9.1%も上回っています。
これほどクラフトビール市場が成長しているのは、フレーバーの多様性を求める若年層からの人気を獲得していることが要因として考えられます。
参照元:株式会社グローバルインフォメーションセンター 市長調査レポート
クラフトビールの製造・販売を始める際に必要な初期投資
クラフトビール醸造所の開業に必要な初期投資額は、6,000万円程度です。
ここからは、初期投資を醸造設備費用と建築設備費用、各種免許取得費用の3つに分けて、必要な費用の目安を解説します。
醸造設備費用
醸造設備費用の目安は、2,000万~3,000万円程度です。
醸造設備には麦汁を作るためのマッシュタンやボイラー、ファンヒーターが必要です。
ほかにも、麦汁の製造やアルコールの発酵を促すステンレス製のタンクや、冷蔵庫・樽洗浄機・モルト粉砕機を用意しましょう。
中小規模のクラフトビール醸造所を新規事業として成立させる場合、1回の仕込みで300L以上醸造できる設備を導入することが、利益を出すうえで望ましいとされています。
仕入れ先や、タイミングによって価格は変動しますが、300Lの醸造設備の導入に見込まれる価格は、2,000万~3,000万円程度です。
また、クラフトビールの醸造設備は海外製が多いため、醸造設備費用を見積もる際は、海外輸送料や関税など、輸入諸経費が金額に含まれているかを確認しましょう。
建築設備費用
建築設備費用の目安は、3,000万円程度です。
ここでは、建築設備費用である、設計工事費用と設計費用を、それぞれシミュレーションします。
設計工事費用は、坪あたりの単価から算出します。
たとえば、鉄筋コンクリート造りの建物に、レストランやバーが併設された醸造所を開業する場合を想定して考えてみましょう。
醸造・飲食スペースを合わせると、35坪の物件が理想的とされており、全国平均坪単価は約70万円です。
以上を踏まえて、設計費用の計算式は、「35坪×坪単価70万円」で2,450万円になります。
くわえて、設計費用が設計工事費用の10%だったとして、「2,450万円+(2,450万円×10%)」で建築設備費用の合計金額はおおよそ2,700万円、3,000万円(税込)程度です。
自宅またはレンタルスペースを利用する場合や、クラフトビールの醸造量によっても、建築設備費用は異なります。
なお、賃貸契約する場合は、契約・保証金として、賃料数か月分の前家賃、敷金、礼金、仲介手数料などが発生します。
各種免許取得費用
クラフトビールの製造・販売には、さまざまな免許が必要であり、免許を取得する際にも費用がかかります。
具体的には、「酒類製造免許(酒造免許)」の登録免許税(2件分)30万円、「酒類製造業の営業許可申請」の手数料2万1,600円です。
クラフトビールの製造においては、酒類製造免許を取得することが酒税法で定められており、登録免許税として、免許1件につき15万円を納付する必要があります。
酒類製造免許の種類は、ビール製造免許と発泡酒製造免許の2種類です。
下記の表に示した通り、製造するクラフトビールの内容によって、免許を取得する基準が設けられています。
【酒類製造免許の取得基準】
ビール製造免許 | 発泡酒製造免許 | |
---|---|---|
麦芽使用比率 | 原料の50%以上 | 原料の50%未満 |
副原料使用比率 | 原料の5%以下 ※認められた原料のみ | 原料の5%以上 |
年間必要製造量 | 60kL以上 | 6kL以上 |
食品衛生法に基づき、酒類製造の営業許可については、酒類製造免許とは別に取得します。
申請手数料は地域によって異なり、東京都の場合は、新規2万1,600円、更新1万4,000円です。
なお、免許の申請手続きを行政書士に委託する場合には、10万~20万円程度の代行手数料がかかります。
クラフトビールの製造・販売にかかるランニングコスト
クラフトビール醸造所の立ち上げを検討する際は、初期投資に加えて、維持費として数か月分のランニングコストがかかる点を把握しておきましょう。
そもそも、クラフトビールの製造は、開始してから提供するまでに約1か月間かかり、すぐに利益が出るわけではありません。
ランニングコストには、主に原料費や光熱費、包装費、賃料、人件費、広告宣伝費がかかります。
今回は原料費、人件費、宣伝広告費の3つに絞って、金額の目安を詳しく解説します。
原料費
1か月間で750L程度のクラフトビールを製造する場合、原料費は45万~75万円程度といわれています。
使用する原料の種類や品質、市場の状況により価格は変わりますが、1Lのクラフトビールの原料費の目安は100円程度です。
特に主要な成分の品質と量は、クラフトビールの風味と色に大きな影響を与えます。
そのため、原料コストは、クラフトビールの製造に発生するコストの大部分を占めます。
さらに2018年の酒税法の改正により、これまで麦・米・トウモロコシしか認められなかった副原料の範囲が拡大したことで、費用帯も幅広くなりました。
どの原料を選ぶか、どのように調達するかといった点で創意工夫できるのも、クラフトビール作りの醍醐味です。
人件費
クラフトビールの製造・販売において、スタッフを雇うために要する人件費は、1か月あたり最低65万円を見込んでおきましょう。
人件費は、人数や役割、スキルや経験、市場の平均賃金を考慮して見積もります。
クラフトビールの醸造における労働コストは、一般的に1Lあたり150~180円程度です。
クラフトビールの製造には、下記の通り複雑な工程が含まれます。
【クラフトビールの製造工程】
- レシピの作製
- 原材料の適切な処理
- 発酵と熟成の管理
- 品質確保のためのテスト実施
上記に挙げた工程には技術や時間を要するため、醸造師を雇うことも考慮します。
ビールソムリエなどの専門家を雇うことで、他社にはないサービスの提供につながるかもしれません。
広告宣伝費
クラフトビール市場で成功するためには、製品だけでなく、販売方法や全体のコンセプト設計を含む宣伝広告にも、力を入れることが重要とされています。
株式会社ヤッホーブルーイングが、2018年に実施した調査によると、クラフトビールの飲用動機は「家族・友人・知人に勧められた」ことが、もっとも多いことがわかりました。
また、4人に1人が「口コミ」が飲用動機であることを挙げています。
そのため、マーケティングにおいては、ソーシャルメディアや、地元メディアと連携した情報発信を駆使して、口コミによる評判形成を図りましょう。
広告宣伝費の予算は、「売上×一定の比率(飲料業界または外食関連のサービス業界は5%)」で算出します。
また、SNSを活用すれば、費用を抑えて宣伝できるほか、口コミによる評判を集めることが可能です。
参照元:株式会社ヤッホーブルーイング クラフトビールに関する調査結果
クラフトビール醸造所の開業にかかるコストを抑える方法
クラフトビール醸造所の開業では、質の高いサービスを提供するためにお金をかけることも大切ですが、それと同時にコストを抑えることも考慮しなければなりません。
コストを削減する方法の一つとして、内装費の節約が挙げられます。
独創的なクラフトビールを製造・販売する醸造所を立ち上げるとなると、内装にも力を入れたいと考える方も多いのではないでしょうか。
しかし、すべての工程を業者に依頼すると、費用が高額になるケースは少なくありません。
壁紙や床の修繕・張り替えなどをDIYしたり、知り合いに頼んだりすれば、内装費の節約につながります。
また、内装を業者に依頼する場合は、安価な資材を部分的に使えるかどうかを相談するのも、一つの手です。
クラフトビール醸造所の開業に必要な資金を調達する方法
クラフトビールビジネスが失敗する要因の一つとして、資金不足が挙げられます。
今回は、その失敗を対策すべく、資金を調達する方法を、2点ご紹介します。
補助金を活用する
政府や地方自治体が提供する新規事業、または中小企業を支援するための補助金を活用することで、設備費用の資金を調達できます。
クラフトビール醸造所を開業する際に利用できる補助金は、以下の通りです。
【クラフトビールビジネスに活用できる補助金】
- 事業再構築補助金
- ものづくり補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 日本産酒類海外展開支援事業費補助金
- 酒類業振興支援事業費補助金
上記の補助金を申請する際には、いくつかの条件がありますので、事前に申請先のホームページをご確認ください。
関連記事:クラフトビール醸造所の開業に活用できる補助金制度を紹介
クラウドファンディングを活用する
近年注目されているクラウドファンディングも、新規事業における資金を調達する方法の一つです。
通常クラウドファンディングは、インターネットなどを通して、数多くの人々から少額の資金を募り、お返しとして製品やサービスを提供する仕組みです。
クラウドファンディングの形態を、以下の表にまとめましたので参考になさってください。
【主なクラウドファンディングの種類】
種類 | 詳細 |
---|---|
購入型 | 事業に対してお金を支援した人が、リターンとして製品やサービスを受け取る |
寄付型 | 支援者が事業に対してお金を寄付し、基本的に製品やサービスなどのリターンは発生しない |
融資型 | 事業者が仲介し、資産運用したい個人投資家から小口の資金を集めて、大口化して借り手企業に融資する |
ふるさと納税型 | 自治体が解決したい課題を具体的にプロジェクト化し、内容に共感した人からふるさと納税によって寄付を募る(控除あり) |
支援者へのお返しにクラフトビールを提供することで、宣伝効果にもなりますので、活用しない手はないでしょう。
ただし、目標金額に到達しない、委託業者への成功報酬が高額になる可能性も留意のうえ、利用してください。
クラフトビールの醸造所を開業する際に必要な初期投資の目安は約6,000万円
今回は、クラフトビール醸造所を開業する際の、初期投資の目安について解説しました。
クラフトビール醸造所を立ち上げる場合、目安として、約6,000万円の費用がかかります。
初期投資のほかにも、数か月分の大まかな原料費や人件費、広告宣伝費などのランニングコストを把握しておきましょう。
また、内装費用の節約や補助金の活用など、資金面の工夫も腕の見せ所です。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインは、ビールの醸造機器の設計や醸造士育成プログラムの実施、設計施工まで、ビール醸造所のスタートアップに関するご相談・ご質問をお待ちしております。
あなたの生み出す“おいしい”を、全力でサポートさせてください。
この記事の監修者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。