発酵温度がビールに与える影響とビールの発酵に適した温度
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- 2024.10.28
- 2024.11.27
ビールの醸造工程の中でも、特に重要な工程が発酵です。
温度管理を誤ると、不快な香りが生じたり、麦汁が腐敗したりする恐れがあります。
繊細な管理を求められるため、十分な注意が必要です。
ここでは、ビール酵母の役割と発酵がビールに与える影響を解説するとともに、適切な発酵温度をビールの種類別に紹介しています。
以下の情報を参考にすれば、発酵の重要性や発酵温度などを把握できるはずです。
発酵工程について理解を深めたい方は参考にしてください。
【目次】
ビールにおける発酵に必要なビール酵母とは
酵母は、糖をエサにアルコールと炭酸ガスをつくる微生物です。
イーストと呼ばれることもあります。
以上の特徴を備えるため、昔からお酒づくりに利用されてきました。
酵母は、空気中、植物の葉、果実の表面など、さまざまな場所に存在します。
また、その種類もさまざまです。
酵母の中で、ビールづくりに適した性質を備えたものをビール酵母といいます。
他の酵母を用いている商品もありますが、ほとんどのビールはビール酵母でつくられています。
ビール酵母には、さまざまな種類があります。
代表的なものとしてあげられるのが、エール酵母(上面発酵酵母)とラガー酵母(下面発酵酵母)です。
ビール酵母は、どのような役割を果たしているのでしょうか。
関連記事:下面発酵と上面発酵の違いと各発酵方法でつくれるビールの特徴
ビール醸造での酵母の役割
ビール酵母の主な役割は、麦汁に含まれる糖を食べてアルコールと炭酸ガスをつくりだすことです。
また、発酵の過程でエステルなどの香気成分もつくりだします。
つまり、ビール酵母は、ビールのアルコール感、のど越し、香りを生み出しているのです。
したがって、使用するビール酵母によりビールの味わいは異なります。
例えば、エール酵母を用いるとフルーティーな味わい、ラガー酵母を用いるとスッキリとした味わいになると考えられています。
フルーティーな味わいになる理由は、エール酵母が香気成分を多く生み出すためです。
ビール酵母は、ビールの味わいを決める重要な役割を果たしています。
発酵温度がビールに与える影響
発酵過程の温度管理は、ビールの味わい、香りなど、品質に大きな影響を与えます。
ビール酵母により、発酵に適した温度が決まっているためです。
温度を適切に管理することで、狙い通りのビールをつくれる環境が整います。
発酵温度が高すぎると、ビール酵母の働きが活発になり、副産物が過剰につくられて風味が悪くなることがあります。
反対に、発酵温度が低すぎると、ビール酵母の働きが抑制されて発酵が進まず、ビールの品質が低下したり腐敗したりする恐れがあります。
いずれにせよ、基本的には悪影響が生じるため、発酵温度を適切に管理することが大切です。
低温発酵と温暖発酵の違い
ビールの発酵は、低温発酵と温暖発酵に分かれます。それぞれの特徴は以下の通りです。
低温発酵
温度を低く保ちながら発酵させる方法です。
雑味の少ないスッキリとした味わいになります。
ホップを感じられる豊かな風味になる点もポイントです。
ただし、管理が難しく、生産量も少なくなる傾向があります。
温暖発酵
クラフトビールの品質を維持するには、酸化のリスクを最小限に抑える必要があります。
ここでは、原料の適切な取り扱いから発酵プロセスまで、酸化を防ぐための具体的な方法について解説温度を高く保ちながら発酵させる方法です。
一般的に、低温発酵よりも管理しやすいと考えられています。
また、生産量も多くなります。
これらの点は、温暖発酵のメリットです。
ただし、発酵温度が高いため、香りは強くなります。
不快な香りになることも考えられます。
ホップが劣化して、風味が悪くなりやすい点にも注意が必要です。
ビール醸造における発酵の理想的な温度
ビールには、さまざまな種類があります。
主な種類は以下の通りです。
- エール
- ラガー
- IPA
- 黒ビール
ここでは、各ビールの概要と理想的な発酵温度を紹介します。
エール
エール酵母を用いてつくるビールです。
発酵が進むと、麦汁の表面に酵母が浮き上がるため、上面発酵酵母とも呼ばれています。
エール酵母の発酵温度は15~25度です。
高めの温度で発酵するといえるでしょう。
発酵は3~4日程度で終わります(熟成期間は2週間程度)。
エール酵母の特徴は、香気成分を豊富につくりだすことです。
華やかな香りを特徴とするビールに仕上がります。
ただし、同じエール酵母でも、使用する酵母により味わいは大きく変わります。
個性的なビールをつくれるといえるかもしれません。
豊かな香りを存分に楽しむため、あまり冷やさずに飲まれることもあります。
ラガー
ラガー酵母を用いてつくるビールです。
発酵が進むと、タンクの底に酵母が沈むため、下面発酵酵母とも呼ばれています。
ラガー酵母の発酵温度は5~15度です。
低い温度で発酵する酵母といえるでしょう。
ビール酵母の活動が抑えられるため、エステルなどの香気成分は多くつくられません。
したがって、スッキリとしたキレのあるビールに仕上がります。
発酵にかかる期間は7~10日程度です(熟成期間は1カ月程度)。
時間をかけてつくられるビールといえるでしょう。
ラガービールが普及し始めたのは19世紀後半からです(誕生は15世紀頃)。
現在では、世界で扱われているビールの90%がラガービールといわれています。
日本の主流もラガービールです。
IPA
ホップを多く用いた苦味の強いビールです。
正式には「India Pale Ale(インディア ペール エール)」といいます。
はっきりとした誕生の経緯はわかっていませんが、18世紀末に船でインドへビールを送るため、防腐効果を期待できるホップを大量に使用したことがきっかけといわれています。
IPAは、発酵が進むと麦汁の表面に酵母が浮く上面発酵酵母(エール酵母)でつくられます。
発酵に適した温度は20~22度です。
高めの温度で発酵するビールといえるでしょう。
醸造の経験が浅い場合は、20度から発酵を始めて調整すると、失敗を防ぎやすくなります。
黒ビール
色が濃いビールのひとつです。
高温で焙煎した濃色麦芽を用いるため色が濃くなります。
濃色麦芽には、黒麦麦芽、カラメル麦芽などの種類があります。
これらを組み合わせて、独特の色味を生み出します。
分類にビアスタイルは関係ありません(色が黒ければ黒ビールと呼ばれます)。
しかし、ビアスタイルで分類することもできます。
具体的には、ポーター、スタウト、シェバルツなどに分類できます。
ポーターとスタウトは上面発酵、シェバルツは下面発酵です。
したがって、発酵に適した温度はビアスタイルで異なると考えることができます。
ちなみに、スタウトに適した発酵温度は15~21度です。
ビールの発酵温度はビールの種類で異なる
ここでは、ビール酵母やビールの発酵温度について解説しました。
ビール酵母は、ビールづくりに向いている特徴を備えた酵母です。
発酵過程でアルコール、炭酸ガス、香気成分を生み出す役割を担います。
発酵に適した温度は、ビールの種類で異なります。
エールに適した発酵温度は15~25度、ラガーに適した発酵温度は5~15度です。
これらから外れると、風味が損なわれたり、腐敗したりする恐れがあります。
温度管理の重要性と適した発酵温度を理解しておくことが大切です。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、醸造設備や施工工事だけでなく、酸化防止策の導入や溶存酸素管理のサポートも行っています。
ビールの品質向上を目指す事業者様は、ぜひ弊社へご相談ください。
この記事の監修者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。