ビール醸造家になるには?手続きと費用の内訳を解説

ビールの奥深さに魅了され、「自分でもこだわりのビールを造りたい」と考える方もいらっしゃるでしょう。
ビール醸造家として開業するには、マイクロブルワリーを立ち上げるのが一つの手ですが、どのようなステップで準備を進めていけばよいのでしょうか?

 

そこで本記事では、ビール醸造家になるために必要な手続きと費用を詳しく解説します。
ビールを造る夢を叶えたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

【目次】

ビール醸造家の定義

ビール醸造家(ブルワー)とは、醸造所(ブルワリー)やビールメーカーで製造を担当する人を指します。
ビール醸造家として起業する場合を除けば、特別な資格は必要ないものの、食品衛生やビール製造に関する幅広い知識が求められます。

 

マイクロブルワリーでクラフトビールを作る方から、大手のビールメーカーに勤める方もおり、ビール醸造家としての携わり方は人によってさまざまです。

 

なお、本記事ではマイクロブルワリーでビール醸造家を目指す方に焦点を当てて、情報をお伝えします。

マイクロブルワリーとは

マイクロブルワリーとは、小規模なビール醸造所のことです。

 

日本では、1994年の酒税法の改正によって、ビールの製造における年間最低製造量が200万Lから6万Lに引き下げられたことを背景に誕生しました。
アメリカでは「年間生産量が約180万Lを下回る規模で、その75%以上を外部へ販売する醸造所」をマイクロブルワリーと定義していますが、日本では明確な定義はありません。

 

また、マイクロブルワリーのように小規模な醸造所で造る、多様で個性的なビールを“クラフトビール”といいます。

ビール醸造家になることの魅力

ビール醸造家になる魅力は、なんといっても個性溢れるテイストのビールを造ることができる点です。

 

原材料選びから製造まで、ビール造りの工程すべてに関わることができるため、独特の味わいや香りをもたせることができます。
フルーティーな味わいのものや苦みの強いものなど、ビール醸造家の裁量次第で好きなように造れるなんて、心躍りませんか?

マイクロブルワリーを開業するために必要な4つのステップ

ご自身でマイクロブルワリーを立ち上げよう思い立った場合、どのようなステップのもとに進めていけばよいのでしょうか?

 

ここでは、マイクロブルワリーを開業するまでの手順を、4つのステップに分けて解説します。

ステップ①醸造スキルを身につける

ビールの製造において、醸造スキルを身につけることが必要不可欠です。
しかし日本では、酒税法によって、アルコール度数1%以上の飲料を、酒類製造免許をもたない人が造ることは禁じられているため、独学でスキルを習得するのは困難です。

 

そこで、スクールや団体などが実施する醸造研修を受ける、あるいはブルワリーで働くといったかたちで醸造スキルを習得しましょう。
ご自身で習得するのが難しい方は、醸造スキルをもつブルワーを雇い入れるのも一つの手です。

ステップ②事業計画を作成する

醸造スキルを身につける傍らで、事業計画の作成を進めていきましょう。

 

事業の構想を具体的な計画に落とし込むことで「初期費用がいくらかかるのか」「どのようなビールを造りたいのか」など、事業の詳細をご自身のなかで整理できます。
また、後述する開業資金の調達や酒類製造免許の取得に際して、事業計画書は必須なので、ここで事業の詳細を決定しておきたいところです。

 

製造したいビールの種類や販売戦略、初期費用の見積もりなどを計画書に書き出し、事業の全体像を描いてみてください。

ステップ③開業資金を集める

事業計画が完成したら、次は資金調達です。

 

マイクロブルワリーを開業し、ビール醸造家になるためには、物件の賃借や醸造設備の購入、内装工事など、多額の初期投資がかかります
資金調達の方法は、銀行融資やクラウドファンディングなどいくつかの種類があるので、ご自身に適した方法で資金を集めましょう。

ステップ④物件を選び、ビール醸造設備を整える

マイクロブルワリーの物件選びは、事業を成功に導く重要なステップです。
原材料の供給ルートの確保や、駅やバス停からの交通の利便性の確保など、さまざまな要素を考慮したうえで選ぶ必要があります。

 

開業する場所が定まったら、醸造設備の準備を始めましょう。
用意すべき醸造設備は、製造するビールや醸造方法によって異なります。
醸造設備を決める際は、性能や耐久性、価格など、ご自身のビール造りとの適合性を吟味して選ぶのが望ましいです。

ステップ⑤酒類製造免許を取得する

上記のステップが済んだら、あとは酒類製造免許を取得するだけです。
所轄の税務署で、事業計画書や醸造スキルの有無に関する書類、ビールのレシピなど、免許取得に必要な資料を、面談を通じながら準備していきます。

 

マイクロブルワリーでクラフトビールを造る際は、「ビール」と「発泡酒」の2種類から、取得する酒類製造免許を選ぶことになります。
この2種類の大きな相違点は、1年間の最低製造量です。
ビールの酒類製造免許の場合は、1年間に最低でも6万L製造する必要がありますが、発泡酒であれば6千Lの製造で営業が認められます。

 

そのため、小規模での営業を望む方は、発泡酒の酒類製造免許を取得してもよいかもしれません。
一般的にビールのほうが高級なイメージがありますが、発泡酒でも味の劣らないクラフトビールを造ることができます。

なお、醸造所に飲食店を併設する場合は、保健所から飲食店の営業許可証の取得が必要です。

関連記事:ビールを醸造するために必要な資格とその取得方法を徹底解説

マイクロブルワリーの開業にかかる費用

マイクロブルワリーを立ち上げ、経営していくためには、どのような費用がかかるのでしょうか?
以下では、開業に必要な初期費用を、維持費とともに詳しく解説していきます。

初期費用

マイクロブルワリーを立ち上げる際の初期費用の目安は、2,000万~3,500万円程度です。
初期費用のなかでも、多額になる費目は以下の通りです。

物件取得費

物件を借りてマイクロブルワリーを開業する場合は、保証金や仲介手数料などがかかります。
具体的な金額は、賃貸契約を結ぶ不動産会社によって異なりますが、一般的には、家賃の6~12か月分の保証金と1か月分の仲介手数料の支払いが必要です。

 

例として、家賃20万円の物件を借りるケースでは、140万~260万円程度が初期費用としてかかります。

醸造設備の導入費用

マイクロブルワリーを開業するためには、麦芽粉砕機や仕込み窯、発酵タンクなど、仕込みから充填するまでの醸造設備を準備しなければなりません。
醸造設備の金額は、規模や購入先のメーカーによって前後しますが、一式揃えるのに1,000万~2,500万円程度かかることが見込まれます。

 

中古品を購入すれば費用を抑えられますが、ビールの品質は設備に左右されるのでこだわりをもって選びましょう。

内装工事費

物件が確保できたら、醸造設備を設置するための内装工事を施します。
内装工事費は、工事の内容や物件の状況によって異なりますが、少なくとも500万円は見積もっておくとよいでしょう。

 

DIYが得意な方は、内装工事の一部を自分で行うことで費用を下げられるかもしれません。

維持費

マクロブルワリーは、経営を維持するだけでも毎月の支出があります。
開業を考えるにあたって、毎月の維持費がどのくらいかかるのかを確認しておきましょう。

 

維持費の費目と、その金額の目安を以下にまとめました。

 

【維持費の費目と金額の目安(月に750Lのビールを製造する場合)】

費目目安
原材料費45万~50万円
水道光熱費5万~10万円
人件費50万~80万円
家賃地域や物件によって大きく異なる

維持費の総額は、100万~140万円程度に、家賃を加えた金額が一つの目安となります。
開業して間もないときは収益を得られない可能性もあるので、資金を充分に確保しておくと安心です。

マイクロブルワリーの開業における3つの資金調達方法

マイクロブルワリーの開業には多額の資金が必要なため、何かしらの手段を講じて資金を調達するのが一般的です。

 

そこで本項では、資金調達の主な3つの方法を紹介しますので、ご参照ください。

方法①銀行から融資を受ける

マイクロブルワリーを開業する際の一般的な資金調達方法として、銀行からの融資が挙げられます。
銀行から融資を受けるための審査では、「事業計画が綿密に立てられているか」「自己資金をどれくらい用意しているのか」の2点が重視されます。

 

原材料の仕入れ先や資金の使途など、経営に関する資料を豊富に用意することで事業実現性の高さをアピールしましょう。
また、自己資金は、マイクロブルワリーの開業に必要な資金総額のうち、30~50%程度を用意できれば、審査を通過する可能性が高まります。

方法②クラウドファンディングで資金を募る

マイクロブルワリーの開業資金を集める方法として、クラウドファンディングも挙げられます。
クラウドファンディングとは、インターネットを通じて不特定多数の方から支援を募る仕組みのことで、支援者に対してはリターンとして製品やサービスを提供します。

 

ビール造りへの熱意をアピールしつつ、ビールを楽しめるリターンを設定すれば、多くの賛同を得られるかもしれません。
ただし、目標金額に達するまで期間を要する可能性や、そもそも目標金額を達成できない可能性も念頭に置いておく必要があります。

 

クラウドファンディングを利用する際は、余裕のある資金調達の計画を立てましょう。

方法③補助金や助成金を活用する

政府や各自治体は、新規事業を始める方を支援するために、補助金や助成金を提供しています。
たとえば、政府によって実施される「事業再構築補助金」や「ものづくり補助金」は、クラフトビール事業で利用することが可能です。

 

これらの補助金や助成金は返済が不要な場合もあるので、開業に関わる負担を大幅に軽減してくれます。

 

ただし、申請には一定の要件があるうえ、競争率も高いため、申請に漏れることがないように事前にきちんと調査し、適切な書類を準備しておきましょう。

マイクロブルワリーを成功させるための3つのポイント

マイクロブルワリーを開業し、多くの方にこだわりのビールを飲んでもらうためにはどうすればよいのでしょうか?

 

ここからは、事業を成功させる3つのポイントを詳しく紹介していきます。

ポイント①ビールの品質の追求する

マイクロブルワリーを成功に導くカギを握っているのは、ビールの品質です。

 

クラフトビールは、大量生産されるビールとは異なり、醸造家の手で、一つひとつじっくり向き合って造られるため、品質を追求することができます。
また、消費者もクラフトビールに対して、品質の良さやブルワリーの独自性を求める傾向にあります。

 

ですので、マイクロブルワリーを立ち上げる際は、扱う設備やビールのレシピにこだわりをもち、品質の追求に尽力しましょう。

ポイント②ブランドの認知度の向上を図る

良い商品を造るだけでなく、多くの人に知ってもらうこともマイクロブルワリーを成功させるためには求められます。

 

そのためにインターネットを積極的に活用し、多くの人に自社のブランドを認知してもらいましょう。
オンラインショップを開設すれば、遠方の方にも購入していただけるかもしれません。

 

ご自身の造り上げたビールを消費者に知ってもらい、手に取りたくなるようなマーケティング戦略を行うことが成功につながります。

ポイント③地域に密着したビールを造る

マイクロブルワリーを成功させるには、ブランドの認知度を向上させるのが大事であると説明しましたが、そのために地域性を活かしたビールを造ることも有効な手段の一つです。

 

地域の食材を活かしたビールや、文化性を取り入れたビールを造ることで地域に根差したブルワリーを目指せます。
また、地域で開催されるイベントに参加して、地元の方と直接的にコミュニケーションを図ることも大切です。

 

そうすれば、ご自身が醸造したビールがその地域の特産として認知され、地元の方に愛されるのはもちろん、その土地を訪れた方がお土産として購入してくれるでしょう。

ビール醸造家になり、こだわりの溢れたビールを造りましょう

本記事では、ビール醸造家になるための手順と費用の内訳を解説しました。

 

マイクロブルワリーを開業し、ビール醸造家になるためには、醸造スキルを身につけることや酒類製造免許を取得することなどが求められます。
また、開業の際には、物件の賃借や醸造設備の購入のために2,000万~3,500万円程度の初期費用が必要です。
自己資金で足りない部分は、銀行の融資やクラウドファンディングで資金を調達して、こだわりのマイクロブルワリーを立ち上げましょう。

 

マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、ビールの醸造に関する経験豊富な3人の現役醸造家が、マイクロブルワリーの開業支援を行っております。
開業に関するあらゆる悩みを解決しますので、まずはご相談ください。

この記事の監修者

監修者の写真

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者

兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント

<略歴>

大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。

<監修者から>

ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。

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