ビールの醸造器具を消毒する方法とクリーニングの手順を解説

ビールは、その爽快感と原材料特有の風味が楽しめることから、酒類の中でも人気の高い飲み物です。 ただし、醸造には鮮度や衛生状態への配慮が必要であり、安全にビールを製造するために欠かせないのが『衛生管理』です。 ビール自体の衛生に気を配ることも重要ですが、醸造器具の消毒はビールの品質を直接左右するため、欠かせない工程です。 この記事では、ビールの醸造器具を消毒する意義や実際の消毒方法について取り上げています。 器具のクリーニング手順も詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。

【目次】

醸造器具を消毒する意味

消毒は、ビールの醸造に必要な酵母だけでなく、バクテリアやカビなどの微生物を殺菌・除去するために欠かせない工程です。 発酵過程での不要な感染や異常発酵を防ぎ、ビールの風味や香りが安定します。 微生物が繁殖すると、ビールの風味が損なわれる可能性があります。 特に、雑菌が繁殖すると不快な風味や臭いが生じることがあるため、ビールの風味を保つためにも消毒が不可欠です。 また、ビールの安全性を高めるためにも消毒は重要です。特に、家庭醸造や小規模醸造では、適切な消毒を怠ると、消費者に健康リスクをもたらす可能性があります。

醸造器具の消毒方法

醸造器具の消毒方法にはいくつかの方法があります。 【アルコール消毒】 アルコール消毒は、消毒用エタノールを使って醸造器具を拭くか、スプレーを行って殺菌する方法です。 アルコールは揮発性が高いため、乾燥後はすすぎをせずそのまま使用できます。 【紫外線消毒】 紫外線消毒は、紫外線ライトを照射して微生物を不活性化する方法です。 紫外線は微生物の活性を抑制しますが、紫外線が届かない部分では効果が低下します。 これらの方法に加えて、温度管理や化学物質を用いた消毒も広く行われています。 2つの方法を詳しくみていきましょう。

温度管理を行う

温度管理とは、主に熱を利用した消毒方法のことを指します。 【熱湯消毒】 熱湯消毒(煮沸消毒)は、熱湯を鍋などで沸かし、金属製の器具や耐熱ガラスを浸けて消毒する方法です。 高熱にさらすことで微生物を効率的に取り除くことができます。 【スチーム消毒】 スチーム消毒は、蒸気を使って消毒する方法です。 スチームクリーナーを使用して器具に蒸気を当て、付着した細菌やウイルスを殺菌します。 熱に弱い器具には当てられないため注意が必要です。 【オーブン消毒】 耐熱性のある器具やガラス製品を洗浄し、専用のオーブンに入れて加熱する方法です。 オーブンから取り出し、自然に冷却します。 煮沸のように水を使わず高温で熱するため、水分を避けたい器具に適した方法です。

化学物質を使う

器具の消毒では、食器用洗剤や一般的な消毒剤は使用せず、苛性ソーダ、過酸化水素、過酢酸、リン酸、硝酸などが使用されます。 それぞれの消毒方法についてみていきましょう。

苛性ソーダ

苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)は、苛性アルカリ洗浄剤として有機物を分解します。 水に溶けやすい特徴もあるため洗浄剤として優秀ですが、固体の状態では取り扱いが難しいため液化された苛性ソーダが洗浄剤として用いられます。

過酸化水素

過酸化水素は配管の洗浄にも多く使われている一般的な洗浄剤です。 過酸化水素を2〜3%に希釈した水に器具を浸けると、有機物が剥離・除去されます。 器具を浸す以外では直接スプレーを行って消毒することもできます。

過酢酸

過酢酸は、無色で酢のようなにおいを持つ殺菌料で、ビールの醸造所で多用される化学物質です。 1%の高濃度過酢酸は、強力な作用をもつ病原微生物、真菌や酵母の活動を不活性化し、簡単に落ちない汚れに対しても有効です。

リン酸・硝酸

リン酸は、醸造過程で発生する不純物の予防と除去に効果があるリンのオキソ酸の一種です。 硝酸は、強い酸化作用を持つ無機酸の一種で、原料や水由来の無機汚れの除去に効果があります。

醸造器具のクリーニング手順

醸造器具のクリーニング手順は次のとおりです。
  • 【準備】装置・器具を劣化させない方法を選ぶ
  • 【殺菌】スプレーまたは溶液に浸して殺菌する
  • 【洗浄】乾燥させるか清水で薬剤を洗い流す
まず、洗浄する器具に適した洗浄剤を選びます。 酸に弱い素材には、酸性の化学物質を使用できません。 洗浄剤と醸造器具を用意し、クリーニング工程を確認した後、洗浄剤をスプレーするか水に溶かした溶液に浸します。 殺菌消毒後、薬剤によっては洗浄せず乾燥させるだけの場合もありますが、水などで洗浄してから乾かすプロセスもあります。

麦汁クーラーの洗浄

麦汁クーラーは、高温の麦汁を冷却するための装置です。 クーラーの洗浄では、電源を切ってコンセントを抜いた状態にしてからフィルターを取り外し、内部を洗浄します。 柔らかいブラシや布を使用して表面の汚れを落とし、部品ごとに洗浄しましょう。 水洗いをしたあとはしっかりと乾かしてから取り付けを行い、すべての部品を元に戻して終了です。 洗浄は部品ごとに行うため、汚れの強い部分には相応の洗浄剤を使いましょう。

発酵装置の洗浄

ビール発酵装置の洗浄では、醸造器具用の洗浄剤などを事前に準備します。 はじめに、発酵装置内に残存したビールの残留物を取り除きます。 発酵タンクや他の部分に残ったビールや酵母を取り除いた後、すすぎを行います。 50度前後の温水で装置全体をすすぎ洗いし、大まかな汚れを洗い流します。 次に、洗浄剤を装置内に投入して適切な濃度まで希釈し、溶液を装置内でしっかりと循環させて洗浄します。 洗浄剤が残らないよう温水ですすぎ、過酸化水素などの消毒剤で消毒します。 ただし、消毒剤の使用は必須ではなく、製品ごとに手順や方法が異なる場合があるため、取扱説明書の指示に従ってください。

ビールの品質管理には醸造器具の消毒が重要

今回は、ビールの醸造器具を消毒する意味と消毒方法、クリーニングの手順について紹介しました。 器具に付着した微生物は、化学物質を用いた洗浄剤で効果的に除去できます。 衛生状態の維持とビールの品質管理のためにも、器具の洗浄は不可欠です。 ビールの製造工程で使用される器具や装置は複雑で、素材ごとに適した洗浄剤や洗浄方法が求められるため、手順や洗浄剤の特徴を把握することが重要です。

この記事の監修者

監修者の写真

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者

兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント

<略歴>

大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。

<監修者から>

ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。

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