クラフトビール醸造所を開業する際の注意点を解説

近年、クラフトビールの市場は拡大の一途を辿っています。
そんなクラフトビール業界に参入すべく醸造所を立ち上げようという場合、どんな点に注意が必要か、事前に知っておきたいところです。

そこで本記事では、クラフトビール醸造所の定義を解説したうえで、開業に際しての注意点をお伝えします。
あらかじめ注意点を押さえて、スムーズにクラフトビール醸造所を開業したいとお考えの方はぜひご一読ください。

【目次】

そもそもクラフトビール醸造所の定義とは?

クラフトビール醸造所とは、一般的に“マイクロブルワリー”ともよばれる、多彩なビールをさまざまな製法によって醸造する“小規模な醸造施設”のことです。

大手ビールメーカーのように、大規模な工場で大量生産して流通させるのではなく、あくまでも小規模な施設でビールを醸造・販売しています。
小ロットでの仕込みが可能なため、顧客のニーズや好み、流行りを汲んだ多種多様なクラフトビールを醸造できるのが大きな魅力といえるでしょう。

クラフトビールの醸造にあたっては、伝統的な製法を用いたり、独自のレシピを採用して個性的なビールを生み出したりと、醸造家の信念やこだわりのすべてを反映できます。
そうして生まれた魅力あふれるクラフトビールは、味へのこだわりが強いビールファンからも多くの支持を集めています。

クラフトビール醸造所は、小規模施設であるからこそ醸造家の想いをかたちにできるのです。

クラフトビール醸造所の種類

クラフトビール醸造所には、さらに小さな規模の“ナノブルワリー”とよばれる施設があります。

ナノブルワリーとは、一度に3樽以下のクラフトビールしか醸造・販売しない醸造所を指し、個人や家族で運営しているケースも珍しくありません。
醸造できるクラフトビールの数に限りがあることから、その希少性が贅沢感を生み出しています。

また、ナノブルワリーで用いられるような、少量の仕込みができるコンパクトな醸造設備は、飲食店に併設される場合もあります。
醸造設備を有する飲食店は“ブルーパブ”とよばれ、近年のクラフトビールブームを牽引している存在と言っても過言ではないでしょう。
ビールとしての味わいだけではなく、食事とのペアリングも考え抜いて醸造されたビールは、多くの消費者の心をつかんでいます。

ブルーパブに関しては、“醸造所の種類”とは少し毛色が異なりますが、クラフトビール業界への参入を検討するうえでは、選択肢の一つにくわえてもよいのではないでしょうか。

クラフトビール醸造所の立ち上げに際する注意点

ここまで、クラフトビール醸造所の定義や種類についてお伝えしました。

これらを踏まえたうえで、醸造所を開業する際に注意すべき点を見ていきましょう。
いざ開業に向けて歩みはじめたときに、思わぬところでつまずかないよう、以下で紹介する3つの注意点を押さえておいてください。

注意点①資金面

クラフトビール醸造所を立ち上げる際には、開業が後ろ倒しになる可能性も考慮して、資金は多めに用意しておきましょう。

酒類を製造する施設の開業には、酒類製造の免許の取得や酒税申告が必要になるため、思った以上に時間がかかる可能性があります。
また醸造設備を導入する際、天候や経済状況の悪化に伴う物流の停滞などの影響を受けて、搬入が遅れてしまうケースも考えられます。
特に、クラフトビールの醸造設備の多くは海外製なので、天候の影響で入着・通関が遅れることも十分あり得るわけです。
その結果、開業が後ろ倒しになり、当てにしていた現金収入が入らず、生活がままならなくなったら一大事です。

新たにクラフトビール業界に参入する際には、こうした最悪の事態さえも想定し、醸造所の開業が遅れた場合に備えて生活資金は別途確保しておかねばなりません。

注意点②自治体のルール

クラフトビール醸造所を開業するにあたっては、資金面の担保にくわえて、各自治体が定める法令やルールもきちんと調べておく必要があります。

各自治体が制定する法令のなかでも、醸造所の開業に深く関係するのは“用途地域制度”です。
用途地域制度とは、各自治体が計画的な市街地の形成を目指して、住居、商業、工業などの市街地としての大枠に沿って、用途ごとにすみ分ける制度のことです。
これはつまり、建てられる建物の大きさや種類が制限されるということなので、クラフトビール醸造所の立ち上げに当然のことながら大きく関わってきます。

用途地域は全部で13種類あり、第一種住居地域や商業地域、工業地域などに細かく分けられています。
そのなかにはクラフトビール醸造所を建てられない地域も多数あるため、必ず確認すべき必須事項なのです。
醸造所の開業が許されている地域かどうかは、各自治体に問い合わせるのが確実でしょう。

また、醸造所の開業を検討している地域での、排水処理の方法も押さえておきたいところです。
そのまま排水として流せるのか、浄化槽が必要なのかで初期費用が大きく変わります。
下調べが不十分だと、あとから思わぬ出費となりますので、忘れずに確認しておいてください。

クラフトビールの醸造では、仕込みや発酵、ろ過などの工程において大量の排水が発生することを理解し、地域のルールに則って正しく処理できるシステムを整備しましょう。

参照元:国土交通省 用途地域:https://www.mlit.go.jp/common/000234474.pdf

注意点③設備会社の選定

醸造設備を取り扱う設備会社を選ぶ際は、複数の業者を比較したうえで最終決定するのが賢明です。

ひと口に醸造設備といっても、仕込み設備や発酵貯酒設備など、ビール造りには多くの設備を使用するので、どの範囲までを扱っているのか事前に調べておきましょう。
あわせて設備自体の価格や、導入までに要する時間も確認しておけば、より綿密な事業計画が立てられるはずです。

また、設備会社には豊富な導入実績を有する業者を選ぶことも大切です。
経験豊かな設備会社なら、さまざまな相談に乗ってくれるので、ご自身が考える醸造所のコンセプトや造りたいビールに適した高品質な設備を提案してくれます。
そうして使い勝手の良い設備が手に入れば、最高においしいクラフトビールが醸造できることでしょう。

クラフトビールの醸造設備はビール造りの要だけに、「どの設備会社でも同じだろう」と高を括ることなく、慎重に選定するよう心がけてください。

クラフトビール醸造所の開業までのステップ

クラフトビール醸造所の開業にあたっての注意点は、把握していただけましたか。

続いて、醸造所開業までのステップについて順を追って解説します。
以下でお伝えする内容を押さえて、クラフトビール造りを円滑にスタートさせるためにお役立てください。

①ビジネスプランの作成

醸造所を立ち上げてクラフトビールを醸造・販売するなら、まずはビジネスプランの作成が不可欠です。

市場調査はもちろん、競合と差別化できるポイントを見極めて、それをもとにビジネスプランを練りあげます。
具体的な内容としては、醸造するビールの種類や価格設定、マーケティング戦略、財務計画などが挙げられます。

②ライセンスの取得

酒類を製造する際には、酒税法によって、各自治体の所轄税務署から発行される酒類製造免許の取得が義務付けられています。
当然ではありますがクラフトビールも例外ではなく、醸造所を開業するなら忘れるわけにはいきません。

酒類製造免許を取得するためにはさまざまな要件が設けられており、その申請には多くの書類の作成が必要です。
一部の設備会社では、このような煩雑な手続きをサポートしてくれるサービスを提供しているので、活用してみるのも一案です。

③資金調達

先述したように、クラフトビール醸造所を開業する場合は多額の資金が必要になるため、あらかじめ資金調達の方法を決めておきましょう。

クラフトビール醸造所の立ち上げにかかる初期費用をどのように調達するのかは、事業を成功に導くカギともなり得ます。
資金を調達するにあたっては、自己資産で足りなければ、金融機関から融資を受けたり、補助金を活用したりとさまざまな方法があります。

このような選択肢のなかから、ご自身の資金計画に適した方法を選択してください。

④設備の購入

ビジネスプランを立て、酒類販売に関わる免許と醸造所開業に充てる資金を用意できたら、クラフトビールの醸造設備を購入します。

おいしいクラフトビール造りには、“痒いところに手が届くような”使い勝手の良い醸造設備が欠かせません。
一部の設備会社では、要望に応じて設備のカスタマイズを提案してくれるので、ご自身が長く使用できる設備をお探しであれば、相談しながら納得のいく設備を導入しましょう。

⑤レシピ開発

設備の導入が済んだら、そこで造るビールのレシピ開発に移ります。
クラフトビールの醍醐味ともいえる、その醸造所ならではの香りや味わいを決める重要な工程です。

レシピ開発においては、消費者のニーズを的確につかむことが何より大切になります。
どれだけ高品質なビールでも手に取ってもらえなければ意味がなく、話題性に富んでいてもリピートしてもらえなければ利益につながりません。
長く醸造所を運営していくためには、レシピ開発が生命線になるともいえます。

そのレシピをもとに、使用する原料や製法にこだわり、試行錯誤を重ねて、ご自身がイメージするクラフトビールを造りあげてみてください。

⑥醸造

レシピ開発が完了したら、いよいよクラフトビールの醸造に移ります。
最初は小ロットから始めて、消費者のニーズとマッチしているのかを確認しながら、徐々に醸造する量を増やしていくのが一般的です。

いくらレシピが完璧であっても、醸造工程に難があれば、おいしいクラフトビールは造れません。
衛生管理や温度管理を徹底して、高品質なクラフトビールを醸造しましょう。

クラフトビール醸造所を運営する際のポイント

さて、クラフトビール醸造所の開業までのおおまかな流れを理解したところで、ここからは実際に醸造所を運営する際に、どのような点に気を配ればよいのかを解説します。
以下で3つのポイントを紹介するので、参考にしてください。

ポイント①定期的に市場調査を実施する

クラフトビールの市場は競争が激しいため、開業前にはもちろん、開業後にも定期的な市場調査が欠かせません。

近年はクラフトビールへの消費者の関心が高まっており、各地で関連イベントが開催されています。
また、コンビニやスーパーには多種多様なクラフトビールが並んでいるのをよく目にします。

醸造家たちがしのぎを削るなかで長くビール造りに携わるためには、どのようなビールが市場で人気があるのかを調査し、ご自身の醸造所に反映させていくことが重要です。

ポイント②先を見越した資金管理を行う

クラフトビール醸造所を運営していくには、初期投資だけではなく運転資金も考慮した資金計画を立ててください。

予期せぬ出費の発生や、売上が思うように伸びないといったことは往々にしてあり得ます。
そのようなとき、醸造所の運転資金に余裕がないと、対応に行き詰ってしまうかもしれません。
金融機関への融資申し込みに備え、きちんと売上見込みを立てて、常に先を見越した資金管理を徹底しましょう。

可能であれば、数年後までの資金計画を立てておけば盤石です。

ポイント③品質管理を徹底する

品質管理は、クラフトビール醸造所の信頼性に直結する重要な要素の一つです。

定期的な品質チェックと衛生管理を徹底すれば、高品質なビールの安定的な醸造がかなうはずです。
消費者に「ここならいつでも安心しておいしいビールが飲める!」と思わせることができれば、クラフトビールビジネスを軌道に乗せられるでしょう。

そのためには、醸造したビールのサンプリングと分析を怠らず、万が一問題が発生した場合にも迅速に対処できる体制を整えておくことです。

クラフトビール醸造所をビジネスとして差別化する

業界を問わずにいえることですが、クラフトビール業界においても、競合他社との差別化は競争力をもつという意味でも非常に大切です。

その際、差別化を図るための方法の一つとして、独自レシピの開発が挙げられます。
はじめのうちは、同業者からアドバイスを受けながらレシピ開発を進めるのもよいでしょう。
しかし、ほかの醸造所と一線を画すクラフトビールを造るためには、自社独自のレシピ開発が欠かせません。
ある程度のノウハウを蓄えたら、ぜひご自身だけのクラフトビール造りに着手してみてください。

またその際に、地域産の原料を使用した“ご当地ビール”を醸造するのも有効です。
これにより、消費者の関心を引ける可能性があります。
地元に根差した醸造所として認知されれば、リピーター獲得にも寄与するのではないでしょうか。

クラフトビール醸造所で起きやすいトラブル・事故

最後に、クラフトビール醸造所で発生する可能性があるトラブルや事故についてもお伝えします。
以下で紹介する内容を理解して、安全にクラフトビール造りを進めてください。

醸造設備の故障

いくら優れた素材を使用し、使い勝手にこだわった醸造設備を導入しても、醸造過程で不具合が生じないとも言い切れません。

クラフトビールの醸造設備では、大型のタンクに取り付けられた各種部品や、温度計なども大切な役割を担っています。
これらが故障してしまうと、ビールの品質にも大きく影響します。

このような事態に備えるには、万が一の故障にも対応できるよう、メンテナンスや修理まで請け負ってくれる設備会社から醸造設備を購入するのがおすすめです。

やけど

クラフトビールの醸造に際しては、やけどの危険性がある点も頭に入れておきましょう。

醸造工程によっては醸造設備が高温になるため、誤って設備の表面に触れてしまうとやけどのおそれがあります。
また、ビール醸造では熱湯を扱う工程もあり、同様にやけどの危険を孕んでいます。

ご自身や従業員の安全を確保するためにも、設備の取り扱いや危険要因については事前に周知を徹底しておく必要があるのです。

化学物質による被害

醸造設備の洗浄に使う洗浄溶剤や消毒用化学薬品は、軽微な皮膚刺激を引き起こす可能性があるため、十分注意して使用するよう安全管理を徹底してください。
場合によっては深刻な危害を受けることも念頭に置いて、皮膚に付着してしまった際の対処法をご自身と従業員間で共有しておきましょう。

このように、クラフトビール造りには少なからず危険が潜んでいます。
醸造所を開業する際には、労災が起こった場合の対処方法をきちんと定めたうえで、安心・安全を意識しながら運営することが何より重要です。

クラフトビール醸造所を開業する際には、資金対策や自治体のルールなどに注意する

今回は、クラフトビール醸造所の定義をお伝えしたうえで、開業にあたっての注意点を紹介しました。

クラフトビール醸造所を開業する際には、想定外の出費に備えて資金を多めに用意し、そのうえで各自治体のルールも細かく確認しておきましょう。
また、どの設備会社からどんな醸造設備を購入するのかも、妥協せず慎重に検討してください。

マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、現役の醸造家3名が代表を務め、醸造家にとって真に使いやすい醸造設備を販売しています。
醸造所に合わせたカスタマイズも可能なので、“痒いところに手が届く”設備を導入したいとお考えの方は、ぜひ一度お問い合わせください。


この記事の監修者

監修者の写真

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者

兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント

<略歴>

大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。

<監修者から>

ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。

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