クラフトビールの個性!色の違いはなぜ生まれるのか

味や香りの多様さもさることながら、ビールはその色味一つとっても、実に多くの種類があります。

見た目もビールの個性を特徴づける重要な要素の一つですから、ビールの色の由来については、しっかり押さえておきたいところです。

 

この記事では、ビールの色に焦点をあてて、違いが生まれる理由や色のよび名も紹介します。

ビール醸造へのチャレンジをお考えの方は、ぜひご一読ください。

【目次】

ビールの色の多様性

まるでコーヒーのような褐色のビールから、淡い黄色が美しいものまで、「本当に同じビールなの?」と思うくらい、世界にはさまざまなビールがあります。

 

見た目が個性的なビールとして、まずは“黒ビール”を思い浮べた方も多いのではないでしょうか。

黒ビールの代表的な銘柄としては、蠱惑的な深い褐色が印象的なギネスビールが挙げられるでしょう。

 

対して、白みがかった色味を特徴とする“白ビール”もあります。

有名どころではドイツのヴァイツェンがあり、見た目に関しては先述の黒ビールと対照的です。

 

見た目にも個性あふれるこれらのビールですが、実はどれも麦芽やホップ、酵母などの同じ原材料から作られ、基本的に醸造工程にも大きな違いはありません。

色にこれだけの違いが出る理由を理解するためには、後述する原材料ごとの特性や、醸造工程における科学的メカニズムを押さえておく必要があります。

ビールの分類

ひと口にビールといっても、原材料や製法によって、その色味や味わいはさまざまです。

ここでは、発酵法の違いによる、ビールの2大分類を紹介します。

ラガー

ラガービールとは、ビールの醸造過程において、タンクの下部で発酵が起こる「下面発酵」により醸されるビールのことです。

 

後述する「上面発酵」と比較して、低温で長い発酵時間を要します。

苦みによるキレと端麗さを特徴としており、よく冷やすことで、のどごしが際立ちます。

アサヒ、キリン、ヱビス、サッポロなど大手メーカーが多数の銘柄を製造しており、“日本のビールの代名詞”といっても過言ではありません。

 

後述するように、日本の水は硬度が低いため、国内で作られるラガービールの多くは淡い金色をしています。

エール

エールビールは、タンクの上面で発酵が起こる「上面発酵」により、醸されるビールです。

 

軽やかな味わいと、フルーティーな香りが魅力的で、「ビールの苦みが……」という方にもおすすめできるタイプのビールです。

飲む際は冷やし過ぎずに、常温に近づけることで、独特の華やかさが香り立ちます。

一大ブームを巻き起こしたクラフトビールの多くもこのエールビールタイプであり、着実に市民権を獲得しつつあります。

 

世界的には、美しい黄金色を特長とするゴールデンエールやペールエールが有名です。

クラフトビールの原材料と醸造工程

続いて、ビールの原材料と醸造の流れについて解説しましょう。

なお、ビールとクラフトビールの原材料および製法に大きな違いはありません。

 

クラフトビールの個性は、副原料をはじめとした原材料の選定や配合、そして醸造工程における温度調整、時間管理などのさじ加減によって生み出されます。

基本的に、ビールは下記の5つの原材料から作られます。

 

【ビールの原材料】

  • 麦芽(モルト)
  • ホップ
  • 酵母
  • 副原料

ビールの9割は、水です。

日本酒の醸造において「良い水が決め手」といわれるのと同様に、水はビールの特徴を決定づける大切な要素です。

 

口当たりはもちろん、麦芽と並んで、その見た目に大きな影響を与えます。

総じて、高度の低い軟水で仕込めば淡い色に、硬水を使えば濃い色のビールに仕上がる傾向にあります。

 

ビールの原材料のうち水に次いで重量比率が大きいのが、大麦を発芽させた「麦芽(モルト)」です。

漢字表記でビールは「麦酒」と表記されることからもわかる通り、ビール作りにおいて、なくてはならない原材料です。

風味を決める大きな要素であると同時に、後述するように発酵工程において酵母の大切な栄養源となります。

 

ホップは、アサ科の植物の球花のことであり、ビールにさわやかな苦みや、フルーティーな香りを与えます。

また防腐作用も併せもっており、冷蔵技術が未発達であった時代においては、保存料としての役割も果たしていました。

副原料は糖質や香りを添加する目的で用いられ、特にクラフトビール作りにおいては、その個性を生み出す重要な原材料といえます。

 

原材料が一通りそろったら、醸造工程へと進みます。

工程➀製麦

製麦は、先述したように、大麦ないし小麦を発芽・乾燥させる工程です。

発芽させることで、大麦自体に含まれるでんぷんを糖に変えるはたらきをもつ酵素であるアミラーゼが生成されます。

 

糖は、のちの「発酵」工程において酵母のエネルギー源となる、不可欠なものです。

発芽した大麦を、防腐・保存のために乾燥させたら、製麦工程は完了です。

工程②ミリング

続いて、乾燥させた麦芽を砕く「ミリング」工程へと進みます。

ミリングは、「(うすなどで)挽く」ことを意味しており、ホールペッパーを粉末化する「胡椒ミル」と同じ語源です。

 

この作業により、でんぷんやアミラーゼなど、含有されている各主成分を次の工程で溶出させやすくなります。

工程③仕込み

仕込み工程においては、ミリングによって粉砕した麦芽にお湯を加え、成分を浸出させます。

このとき、麦芽に含まれるでんぷんが、アミラーゼのはたらきによって、糖へと化学変化する「糖化」が起こるのです。

 

糖化が完了したら、ろ過して不純物を取り除き、煮沸します。

ろ過された液体は「麦汁(ばくじゅう)」とよばれ、糖化による濃厚な甘みが特徴です。

 

次いで、苦みと香りづけを目的としてホップを投入すれば、発酵の準備が整います。

工程④発酵

発酵工程においては、酵母が麦汁に含まれる糖を、アルコールと二酸化炭素へと分解します。

ビールに含まれるアルコールと発泡感は、この発酵工程において生み出されるのです。

 

糖は酵母のエネルギー源、いわば“エサ”であり、糖度によって、アルコール度数や味わいにも大きな違いが生まれます。

エールビールとラガービールで所要期間は異なるものの、発酵工程はおおよそ7~10日前後です。

工程⑤貯蔵・熟成

発酵が完了したビールは、専用のタンクで数週間~数か月間、低温貯蔵・熟成されます。

 

この工程によりアミラーゼが失活し、また、アミノ酸等の化学変化により円熟味のある落ち着いた味わいとなるのです。

以上がビール醸造の主なプロセスであり、完了次第パッケージングされ、出荷へと進みます。

関連記事:ビールの醸造における水の重要性を解説!

クラフトビールの色を決める要素

深みがかった褐色の「黒ビール」から黄金色のエールまで、ひと口にビールといってもその色や見た目は多種多様です。

そんなビールの色を決める要素は、大きく分けて麦芽と水の2つです。

 

麦芽には、乾燥させる際の温度によって、その色味が変化するという特徴があります。

低温乾燥であれば小麦色ないし薄緑色、温度を上げるにつれて黄金色、茶褐色へと変化するといった具合です。

 

これは、熱によって、麦芽に含まれる糖質・アミノ酸が黒く変色する、いわゆるメイラード反応によるものと考えられています。

コーヒー豆を炒ると茶褐色に変化する、あるいは砂糖を高温で煮詰めるとキャラメル色になるのと同じメカニズムです。

そして、この麦芽の色素成分は水に溶出して、そのままビールの色になります。

 

水がビールの見た目、色に与える影響も少なくありません。

含有されるミネラルの多寡によって、溶出する各種成分の量や、酵母の活動量の差が生まれるためです。

 

基本的には、ミネラル分が少ない軟水で醸せば色の淡いビールが、対して硬水であれば色の濃いビールが出来上がります。

日本の水は基本的に軟水であるため、ラガービールのような薄黄色、黄金色の淡い色のビールが多く出回っています。

 

後述するように、色味と味わいのあいだには一定の相関関係があるため、色味からビールの風味をある程度推し量ることも可能です。

色の種類

ビールの醸造工程においては、品質管理の観点から、色の呼称も下記のように共通言語として定められています。

 

【ビールの色の呼び名】

  1. Pale Straw(淡い小麦色)
  2. Straw(小麦色)
  3. Pale Gold(淡い金色)
  4. Deep Gold(濃い金色)
  5. Black(黒色)

同じ種類のビールであっても製法や、原材料によって色は異なるものです。

全体的な傾向としては、小麦から作られるビールは色が淡い傾向にあり、エールやラガービール、そしてスタウトビールの順で、色は深みを増していきます。

ビールの色と風味の関係

ビールの色は、その風味を推し量るうえでの指標となる場合もあります。

 

色の淡いビールは、味も軽やかですっきりとした傾向にあり、色が深みを増すにつれて、味わいも重厚感を増し、甘味やコクが強くなります

さらに、黒色のビールになると、高温で麦芽を乾燥させた際に発生する甘くこうばしい香りが漂い、味わいも濃厚です。

ビールの香りの種類

ここでは、色と並んでビールの個性を決定づける大切な要素の一つである、「香り」について解説します。

ビールは、口に含むと鼻に抜ける、なんともいえない蠱惑的な香りがたまらないですよね。

 

この香りは、いくつかの種類のアロマ成分が合わさって醸成されるものです。

ビールの香気は、3つに大別されます。

酵母由来の「エステル香」

エステル香は、酵母が生成する香気のことです。

酵母によってその香りはさまざまですが、総じて蜜や果物のような濃厚で甘いアロマです。

 

特に、エールビールに代表されるフルーティーな香りは、上面発酵するタイプの酵母によって作りだされます。

エステル香は、常温帯で香りが花開くため、冷やし過ぎないのが香りを楽しむ際のポイントです。

ホップ由来の「ホップ香」

ホップの香りも、ビールになくてはならない香気です。

ライチや花のような、さわやかで甘い香りを特徴としており、この香りはリラックス効果をもつとされています。

 

IPAとよばれる、ホップを通常よりも多く使用したタイプのビールは、苦みが強いものの、ホップ由来のさわやかな香気を堪能できるビールです。

麦芽由来の「モルト香」

麦芽由来のモルト香は、焙煎度合いによって香気の質も変化します

焙煎を軽めに抑えれば、麦本来の青さとクリスピーさが入り混じった香りとなります。

 

焙煎度が上がるにつれて、アロマの濃厚さが増していき、見た目が黒くなるほど強めに火を入れたモルトを使ったビールの香気は、さながらチョコレートのようです。

高品質のクラフトビールを醸造するために

ここまで、原材料がビールの風味や見た目に大きな影響を与えるという話を紹介しました。

高品質なクラフトビールを醸造するためには、原材料の吟味や、計量、適切な配合が欠かせません。

 

その点を踏まえたうえで、製造工程における酸化対策や、微生物管理も徹底しておきたいところです。

どれだけ高品質のビールであっても、空気に触れた途端、急速に劣化しはじめ、風味が損なわれていきます。

 

また、発酵工程で酵母以外の意図しない雑菌が混入すれば、仕上がり品質の大幅な低下を招きます。

醸造工程のみならず出荷時、そして消費者の手元に届くまで、こうした脅威からビールを守るための品質管理対策が、安心でおいしいビール作りには不可欠です。

ビールの色は麦芽や使用する水によって変わる

今回はビールの色に焦点をあてて、色味に違いが生まれる秘密を紹介しました。

 

ビールの主な原材料のうち、水と麦芽はビールの色の濃淡に大きな影響を与えます。

醸造工程においては「Pale Straw(淡い小麦色)」「Deep Gold(深い金色)」など、色を表す用語もあり、品質管理に役立てることが可能です。

 

マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインは、マイクロブルワリーのビール醸造をサポートしております。

高品質なクラフトビール醸造に欠かせない、各種設備・機器を取り揃えていますので、ビール作りに挑戦しようとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

この記事の監修者

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株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者

兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント

<略歴>

大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。

<監修者から>

ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。

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