クラフトビールの品質を左右する溶存酸素とは?
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- 2024.09.09
- 2024.11.01
クラフトビールの品質に大きな影響を与える要素の一つが「溶存酸素(DO)」です。
酸素はビールの風味を損ねる可能性があり、DOの管理は高品質なビールを製造するためには欠かせません。
本記事では、溶存酸素の基本的な概念や、DOマネジメントの方法、さらに酸化防止策について詳しく解説します。
新規事業や事業拡大を考えている経営者の皆様は、ぜひ参考にしてビールの品質向上に役立ててください。
【目次】
- 溶存酸素(DO)とは?
- DOマネジメントの方法
- 酸化はビールの大敵
- クラフトビールの酸化防止策
- 脱酸素水が溶存酸素を防ぐ鍵となる?
- 脱酸素水の使用による賞味期限への影響
- クラフトビールの製造は酸素対策を徹底しよう
溶存酸素(DO)とは?
ビールの品質管理において、溶存酸素(DO)は極めて重要な要素です。
発酵前のビールにとって酸素は必要不可欠で、酵母が活発に活動するための栄養素として機能。
しかし、発酵が完了した後、酸素はビールにとって有害な存在となります。
酸素がビールに過剰に溶け込むと、酸化が進行しビール本来の風味が損なわれ、賞味期限が短縮される原因となるのです。
溶存酸素(DO)とは、ビールに溶け込んでいる酸素の量を指し、製造から出荷までの全プロセスにおいて厳密に管理されるべき項目です。
DOの管理が適切でないと、ビールの酸化が進み、ブルワーが意図した味わいや香りが消費者に届かない可能性があります。
特に瓶や缶で販売する場合、DOの影響は顕著であり、パッケージングの際に空気との接触を最小限に抑える工夫が求められるでしょう。
ビールの酸化は品質劣化の大きな要因であり、アメリカの有名ブルワリーであるシエラネバダブルーイングも、この課題に対して積極的な対策を講じています。
彼らのようにDOマネジメントを徹底することが、クラフトビールの高品質を維持し、消費者に最高のビールを提供するための鍵となるのです。
関連記事:クラフトビールの品質管理の方法は?3つの検査を紹介
DOマネジメントの方法
ビールの品質を維持するには、溶存酸素(DO)の管理が重要です。
DOマネジメントとは、各製造工程において酸素の影響を最小限に抑えるために行う作業のこと。
酸素はビールの酸化を促進し、風味を損なう原因となるため、DOを適切に管理してビールの賞味期限を延ばし、最高の品質を保ちましょう。
測定のタイミングと目標数値
DOマネジメントの第一歩は、適切なタイミングで酸素の濃度を測定し、目標値を維持すること。
基本的な測定ポイントは主に二つあります。
まず、発酵タンク内部の酸素量を管理することが重要で、この値は通常30ppb以下を目指します。
また、充填後のパッケージ(缶・瓶・樽)の内部酸素量も測定対象であり、こちらは50ppb以下に抑えることが求められます。
これらの数値はビールの酸化を防ぐための基準であり、定期的に測定することで製造過程全体を通じた酸素管理が可能です。
DOの数値が基準値を上回った場合
もしDOの数値が基準値を超えてしまった場合、原因を迅速に特定し、適切な対策を講じましょう。
酸素が混入する主な原因としては、ホースやバルブの隙間、容器に残った水分、パッケージング時の泡の処理などが挙げられます。
例えば、ホースの接続部分やバルブの緩みは酸素が入りやすく、これがDOの上昇につながります。
また、パッケージング前にビールの温度を適切に調整し、フィリング時に発生する泡の管理もDO削減において重要な役割を果たします。
ビールに適量の泡ができるように調整することで、酸素との接触を最小限に抑えられるのです。
このように、DO管理は細部にまで目を配り、製造工程全体を通じた改善が必要でしょう。
酸化はビールの大敵
ビールの品質を守る上で、酸化は最大の敵と言っても過言ではありません。
酸化が進行すると、ビールの風味や香りが大きく損なわれ、消費者が求める本来の味わいを楽しむことが難しくなるのです。
特に、ビールが容器に詰められた直後から酸化が始まり、時間の経過とともにその影響は徐々に現れてきます。
このため、できるだけ新鮮な状態でビールを消費者に届けなければいけません。
また、酸化の進行は温度の影響も受けるため、適切な温度管理、特に低温での保管が重要。
これにより、ビールの美味しさを最大限に保つことができ、最高の品質で提供できるのです。
ビールの酸化を防ぐには、醸造から流通、保管に至るまでの一貫した管理が不可欠です。
クラフトビールの酸化防止策
クラフトビールの品質を維持するには、酸化のリスクを最小限に抑える必要があります。
ここでは、原料の適切な取り扱いから発酵プロセスまで、酸化を防ぐための具体的な方法について解説します。
- 原料の適切な取り扱い
- クローズド・システム発酵を採用する
- 適切なエアレーションを行う
- 定期的に溶存酸素を測定する
4つの酸化防止策を順番に見ていきましょう。
原料の適切な取り扱い
ビールの原料である麦芽やホップ、酵母などは酸素に敏感なため、取り扱いに細心の注意が必要です。
特にホップは酸素と接触すると品質が低下しやすいため、真空密封や窒素フラッシュ包装で保管しましょう。
また、原料を移動させる際は酸素が混入しないよう、できるだけ穏やかな操作を心がけてください。
関連記事:クラフトビール作りに欠かせない!ビールの5つの原材料
クローズド・システム発酵を採用する
発酵プロセスにおいて酸素と接触するリスクを低減するには、クローズド・システム発酵が有効です。
密閉された発酵容器を使用し、エアロックやブローオフチューブで外部からの酸素の侵入を防ぐことで、発酵中にビールが酸化するのを防ぎます。
また、コニカル発酵槽を用いることで、発酵後のビールの移し替え作業でも酸素との接触を最小限に抑えられるでしょう。
適切なエアレーションを行う
発酵前の麦汁に酸素を供給するエアレーションは、酵母の活性化にとって重要ですが、酸素供給の管理が不十分だと酸化のリスクが高まります。
インライン酸素添加や密閉システム内での酸素供給で、酸素と麦汁の接触を制限しながら、効果的なエアレーションを実現できるでしょう。
定期的に溶存酸素を測定する
酸化防止策が効果的に機能しているか確認するには、溶存酸素の定期的な測定が不可欠。
専用の計測機器を使用し、ビール中の酸素濃度をモニタリングすることで、酸化のリスクを早期に発見し、必要な対策を講じられます。
品質管理の一環として、官能評価や賞味期限の試験を実施し、常に最高の品質を維持しましょう。
脱酸素水が溶存酸素を防ぐ鍵となる?
ビールの品質を守るために、製造工程の各段階で酸素の影響を最小限に抑える必要があります。
特に、ビールを瓶に充填する前の洗浄工程では、瓶内部に残る溶存酸素がビールの風味を劣化させる原因となるのです。
従来の自然乾燥による方法では、乾燥中に異物が混入するリスクもあるため、より効果的な対策が求められていました。
ここで注目されるのが、脱酸素水の活用。
自然界の水には10~12ppmの溶存酸素が含まれており、これがビールの品質に悪影響を及ぼす可能性があります。
瓶洗浄時に脱酸素水を使用することで、溶存酸素による風味劣化を防ぎ、乾燥工程を省略できます。
瓶内に異物が混入するリスクも同時に低減でき、品質管理が強化されるでしょう。
脱酸素水の使用による賞味期限への影響
脱酸素水を使用することで、クラフトビールの賞味期限を延長できる可能性が高まります。
従来の製造工程では、瓶の洗浄後に残る溶存酸素がビールの酸化を引き起こし、風味の劣化につながるリスクがありました。
しかし、洗浄水を脱気水に置き換えることで、酸素の影響を大幅に抑えられるようになりました。
その結果、ビールの賞味期限を従来の2か月から1か月延長し、合計3か月間品質の高いビールを提供できるようになったのです。
このような技術の導入は、醸造所の製品価値を高めると同時に、消費者に長く新鮮なビールを楽しんでもらうための大きな一歩となります。
クラフトビールの製造は酸素対策を徹底しよう
いかがでしたでしょうか?溶存酸素(DO)がクラフトビールの品質に与える影響についておわかりいただけたかと思います。
酸化を防ぐためのDOマネジメントは、ビールの風味を守り、長期間にわたって高品質を維持するために重要です。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、醸造設備や施工工事だけでなく、酸化防止策の導入や溶存酸素管理のサポートも行っています。
ビールの品質向上を目指す事業者様は、ぜひ弊社へご相談ください。
この記事の監修者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。