ビールを醸造するために必要な資格とその取得方法を徹底解説

クラフトビールの流行を背景に、次々と醸造所が誕生し、現在国内では800か所以上もの醸造所が稼働しています。
そのなかで「自身もビールを醸造してみたい」と思い立ち、どのような資格が必要なのか調べている方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 

そこで本記事では、ビールの醸造に必要な資格と、その取得要件を詳しく紹介します。
ビールの醸造所を立ち上げるまでの道のりを、より具体的に考えたい方は、最後までご覧ください。

【目次】

ビール醸造に資格は必要?

ビールを醸造するためには、税務署長から酒類製造免許を取得する必要があります。

 

その理由は、酒税法によって、アルコール分が1%以上含まれる飲料は酒類とみなされ、酒類製造免許を所持していない者が製造することは禁じられているからです。
もし、免許を取得しないまま酒類を製造した場合は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。

 

それにくわえて、製造した酒類や原料、器具などは没収されてしまうため、ビールを醸造する際は、必ず免許を取得しなければなりません。

ビール醸造に必要な酒類製造免許とは

醸造所を立ち上げ、クラフトビールを造るためには、「ビール」「発泡酒」のいずれかの酒類製造免許を取得する必要があります。
2つの免許の違いを、以下にまとめました。

 

【ビール・発泡酒の酒類製造免許の違い】

 ビール製造免許発泡酒製造免許
麦芽使用比率原料の50%以上原料の50%未満
副原料使用比率原料の5%以下 (認められた原料のみ)原料の5%以上
年間最低製造量60kL以上6kL以上

この2つの免許の大きな相違点は、年間最低製造量です。
ビール製造免許に対し、発泡酒製造免許はわずか10分の1の製造量で操業が認められます。

 

小規模な醸造所の立ち上げを検討している方であれば、発泡酒製造免許を選択するとよいでしょう。
ビールのほうが色や香りの特徴づけに使われる麦芽の使用率は多いものの、発泡酒は副原料の種類に制限がないため独自性の溢れるクラフトビールを造ることができます。

 

以上の特徴をもとに、ご自身の醸造に適した酒類製造免許を選択してください。

酒類製造免許を取得する要件や期間

酒類製造免許を取得するにはどのような要件のもと、どのくらいの期間かかるのでしょうか。
以下から、酒類製造免許の取得要件と期間を解説します。

酒類製造免許の取得要件

酒類製造免許を取得するためには、酒税法に定められた以下の4つの拒否要件に該当していないことを税務署に証明する必要があります。

 

酒類製造免許取得の際に審査される4つの拒否要件

  • 人的要件
  • 場所的要件
  • 経営基礎要件
  • 技術・設備要件

上記の拒否要件の内容を詳しく解説するので、酒類製造免許の取得を目指す際に該当しないように確認しておきましょう。

人的要件

人的要件とは、お酒を製造しようとしている申請者自身に、問題がないかを確認する要件のことです。
「申請者が未成年でないか」「過去に法律違反を犯していないか」「税金を滞納していないか」などが審査されます。

場所的要件

醸造所を設ける場所については、場所的要件のもと審査が行われ、「取り締まり上不適当な場所に醸造所がある」と判断されると免許が下りません。

 

不適当な場所にあると判断される可能性があるのは、醸造所が酒場や料理店と同一の場所に存在するケースです。
醸造所を酒場や料理店と同一の場所に設ける場合は、図面上で醸造所がほかの施設と区分されていることを明示しましょう。

経営基礎要件

申請者の経営能力の存否を判断する要件として、経営基礎要件が設けられており、この要件では経営基盤が薄弱でないかが問われます。
資本金を十分に準備したうえで、綿密な事業計画書を作成し、販売管理体制が整っていることを証明しましょう。

技術・設備要件

技術・設備要件は、お酒を造るのに十分な技術と設備があるのかを審査する要件です。

 

技術に関しては、酒類の醸造に携わってきた経歴で判断されます。
未経験の方は、スクールや団体が開催する研修に参加したり、醸造所で働いたりすることで経験を積まなければなりません。

 

設備については、お酒の製造に必要な設備が整っているか否かが判断の要素です。
ビール醸造の場合は、麦芽粉砕機や醸造釜、発酵タンク、熟成タンクなどの設備を用意することが求められます。
また、「事業計画で設定した生産目標を達成できる規模の設備を準備しているのか」という観点からも確認されるため、それも念頭に置いて設備を選んでみてください。

酒類製造免許を取得するまでの期間

酒類製造免許を取得するまでには、申請者の状況にもよりますが、半年から1年ほどの期間を要することとなるでしょう。

 

それは、醸造技術の習得や物件選び、設備の準備など、取得要件を満たすために多くの必要な工程を経なければならないからです。
くわえて、取得要件を満たし、申請書を税務署に提出したとしても、国税庁まで書類を通すため、審査結果が出るまでに4か月ほどかかります。

 

酒類製造免許を取得し、醸造所を開業するためには、計画的に準備を進めていくことが求められます。
まずは、税務署に赴き、酒類製造免許の取得までの流れを相談するのが望ましいです。

ビール醸造に際して知っておきたい酒税法の改正内容

2023年10月に実施された酒税法の改正で、ビールの税率が引き下げられ、第三のビールの税率が引き上げられたのはご存じでしょうか?

 

2023年の法改正の発端は、2018年に行われた酒税法の改正にあります。
その内容は、「類似する酒類間の税率格差が、商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改めるために、税率を段階的に一本化していく」というものでした。

 

この観点から、類似する酒類として「ビール」「発泡酒」「第三のビール」の3種の税率が、2020年~2026年にかけて統一されます
なお、3種の税率の変化は以下の通りです。

 

【ビール・発泡酒・第三のビールの税率の変化(350mL換算)】

 改正以前2020年改正2023年改正2026年改正(予定)
ビール77円70円63.35円54.25円
発泡酒46.99円
第三のビール28円37.8円46.99円

上記のように、2026年の改正によって、3種の税率は一律で54.25円になる予定です。

税率は、お酒の価格を決める大きな要素の一つなので、3種間の価格差も現状より少なくなることが想定されます。
これからは価格以上に、ビールの味わいや香り、品質によって選ばれるシーンが増えるでしょう。

 

したがって、ビールの醸造所の立ち上げを成功させるためには、独自性の溢れるレシピを作ることや品質を保てる設備を厳選することにも、注力しなければなりません。

ビールの醸造を行う際に大切なこと

ビールの醸造所を経営するにあたって、法令順守を徹底したうえで、品質管理や生産リスク管理にも注意を払う必要があります。
自身の醸造したビールをより多くの人に手に取ってもらうためにも、ここで事前に把握しておきましょう。

法令遵守

ビールを醸造するためには、酒税法を含めて多岐にわたる法令を遵守しなければなりません。
もし法令に反し、ビールの醸造を行えば、懲役や罰金、免許取り消しなどの処罰を受けることになります。

 

たとえば、酒税法では、お酒の販売数量や在庫数量を記入した報告書を、所轄の税務署に毎年提出することが義務付けられています。
報告書を提出しなければ、申告義務違反となり、1年以下の懲役や50万円以下の罰金に処されるので注意が必要です。

 

ほかにも、「酒類業組合法」や「酒類容器等のリサイクルの推進のための資源有効利用促進法」などの守らなければならない法令がありますので、開業前にご確認ください。

品質管理

ビールを醸造するにあたって、なによりも注意すべきなのが商品の品質管理です。

 

ビール造りは非常に繊細で、管理を徹底しなければ品質の低下を招きます。
少しでも品質管理を怠り、クオリティの低いビールを提供してしまうと、苦労して獲得した顧客からの信用を一瞬にして失いかねません。
また、ビールが商品になるには醸造開始から1か月程度かかるので、品質に納得できずに造り直しとなると、費用がかさむうえ、これまでの労力が水の泡となります。

 

そこで、醸造設備だけでなく、ビールの品質を確認できる水質分析装置や適温で保存できる冷蔵庫など、品質を保つための設備を導入して、厳格な品質管理に努めましょう。

生産リスク管理

ビールを醸造する際には、生産過程での異物混入によって、人の健康に悪影響を与えないようにリスク管理を行わなければなりません。

 

例として、消費者が異物に気づかないまま、商品を口にしてしまった結果、喉を怪我したり、体調を崩したりするといった被害をもたらすようなケースが挙げられます。

 

このようなリスクを予防するために、食品衛生法により、酒類製造業者はHACCP(国際的に認められている高度な衛生管理手法)の考えを取り入れることが義務付けられています。
HACCPの基準を守ることはもちろん、醸造所の整理整頓や清掃、点検を徹底的に行い、異物混入が発生するリスクを可能な限り減らしましょう。

関連記事:ビール醸造家になるには?手続きと費用の内訳を解説

ビールを醸造するためには、酒類製造免許が必要

本記事では、ビール醸造に必要な資格と、取得するための要件を紹介しました。

 

ビールを醸造するためには、税務署長から酒類製造免許を取得する必要があり、無免許で醸造した場合は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。
なお、酒類製造免許を取得するには、経営基礎要件や技術・設備要件などの4つの拒否要件をクリアしなければならないため、徹底的な事前準備が必要です。

 

マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、醸造所立ち上げの経験が豊富な現役ブルワー3人による、開業支援を行っております。
酒類製造免許の取得や醸造設備の準備など、開業に関わるさまざまな課題をサポートしますので、まずはご相談ください。

この記事の監修者

監修者の写真

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者

兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント

<略歴>

大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。

<監修者から>

ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。

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