クラフトビールの品質管理の方法は?3つの検査を紹介
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- 2024.06.14
- 2024.11.01
小規模な醸造所で作られるクラフトビールの人気の高まりには、目を見張るものがあります。
この人気の背景には、徹底した品質管理による質の高いビール作りがあることを忘れてはなりません。
この記事では、ビール醸造への挑戦を視野に入れている方に向けて、クラフトビールの品質管理の方法をお伝えします。
末永くファンに愛されるためのビール作りに、ぜひお役立てください。
【目次】
- クラフトビールの原材料
- クラフトビールの醸造工程
- クラフトビール醸造における品質管理の重要性
- ビールの品質を低下させる主な要因
- ビールの品質検査の種類
- ビールの劣化度合いを見分ける方法
- 醸造設備とビールの品質の関係性
- ビールの品質管理のために、各種検査を実施しよう
クラフトビールの原材料
おいしいビール作りは、原材料の吟味から始まります。
品質管理を適切に実施するためにも、それぞれの特性を理解したうえで、選りすぐった質の高い原材料を使用しましょう。
なお、一般的な“ビール”と“クラフトビール”の原材料は基本的に同じです。
しかし、副原料をはじめとした選定する原材料の種類および配合の違いにより、ファンをうならせる個性的なクラフトビールができあがるのです。
はじめに、クラフトビール作りに欠かせない、5つの原材料を紹介します。
➀水
使用する水は、風味や色に至るまで、ビールの特徴を大きく左右します。
水のミネラル含有量の多少によって、酵母の活動や、麦芽・ホップに含まれる各主成分の溶出量に差が出るため、味わいや見た目にも違いが生まれるのです。
ビール作りに適した、おいしい水が豊富に湧き出る地にブルワリーを構えるというのも、一案といえます。
関連記事:ビールの醸造における水の重要性を解説!
②麦芽
麦芽とは、大麦ないし小麦を浸水、発芽させたもののことです。
後述するように麦芽由来の糖は、酵母のエサとなる、発酵過程で欠かせないものです。
また麦芽由来の「モルト香」は、ビールならではの、あの香ばしいアロマであり、“ビールらしさ”を醸成するうえでなくてはならない原材料といえます。
③ホップ
ホップとはアサ科の植物の球花のことであり、ビール作りには主に雌花が用いられます。
ビールに爽快な香りと、心地よい苦みを与えます。
モルト香に対して、ホップの香りは軽やかでフルーティーであることが特徴です。
また、ホップは防腐作用をもつため、前近代においては、ビールの品質を保持するためにも欠かせないものでした。
④酵母
酵母は、ビールに欠かせないアルコールと二酸化炭素を生み出してくれます。
また、酵母由来の香りも、ビールの個性を決定づける重要な要素です。
酵母が生み出す香りはエステル香とよばれますが、この香りは酵母の種類によって大きく異なります。
一度は耳にしたこともあるであろう「ラガービール」と「エールビール」の違いも、実はこの酵母の違いによるものです。
なお、一部の自然発酵ビールでは、原材料として投入されません。
⑤副原料
ビールの個性を花開かせる、忘れてはならない存在が副原料です。
副原料とは、先述の水、麦芽、ホップ、酵母の基本の原材料にプラスして使用される、コーンスターチやハーブ、フルーツなどの食品です。
クラフトビール作りにおいては、主にフレーバーを添加することを目的として加えられており、いわば“スパイス”のような役割をもっています。
最近は、オレンジの風味がするものや、めずらしいものでは山椒が使用されたクラフトビールも、巷で話題です。
このように、副原料はクラフトビールのバラエティを増やし、その世界をより一層奥深くしています。
クラフトビールの醸造工程
詳細は後述しますが、特にクラフトビールを醸造するマイクロブルワリーにとって、品質管理は命ともいえます。
安全でおいしいビールを提供するためにも、醸造工程はしっかりと理解しておきましょう。
ここでは、クラフトビールの醸造工程を5ステップで解説します。
工程➀製麦
ビールの原材料である麦芽を作るためには、麦を浸水、発芽させなければなりません。
発芽させることで、アミラーゼとよばれる酵素が生成されます。
この酵素は、麦に含まれるでんぷんを、糖に変えるはたらきをもちます。
先述した酵母はでんぷんを栄養源とできないので、エサである糖に変換しておく必要があるのです。
できあがった麦芽を乾燥させたら、製麦工程は完了です。
工程②ミリング
続いて、「ミリング」工程へと進みます。
乾燥した麦芽はミリング工程で細かく砕かれ、粉末状になります。
こうすることで、麦内部の栄養分の溶出を助けられるのです。
工程③仕込み
仕込み工程では、粉砕した麦芽に加水がなされ、麦汁(ばくじゅう)ができあがります。
細かく砕かれた麦芽の表面から、水の中に各主成分が溶け出します。
この際に活躍するのが、先述したアミラーゼです。
アミラーゼのはたらきによって、でんぷんが糖に変換される「糖化」が起こり、徐々に甘みを増していきます。
仕込み工程で生産された糖は、のちの発酵工程において欠かせない、酵母の大切な栄養源となります。
糖化が完了次第、煮沸・ろ過を行ってから、ホップを投入して仕込みは終了です。
工程④発酵
麦汁に含まれる糖を酵母がアルコールと二酸化炭素に分解するのが、発酵のメカニズムです。
発酵プロセスにおいては、適切な温度調整や、時間管理が重要です。
なお酵母の違いに起因して、発酵に要する期間はエールビールよりもラガービールのほうが長い傾向にあります。
またビールの種類によって、醸造工程における発酵プロセスを2度行うこともあり、これを2次発酵とよびます。
工程⑤貯蔵
発酵が完了したビールは、数日~数か月かけて、低温貯蔵・熟成されます。
この期間に、各種酵素が失活し、味わいも落ち着きます。
貯蔵により円熟味が増すことから、味の深みや、なめらかなのどごしが重視されるラガービールでは、特に重要なプロセスです。
貯蔵と熟成が完了すれば、いよいよ出荷です。
クラフトビール醸造における品質管理の重要性
ビールに限った話ではありませんが、食品を製造する以上、品質管理は徹底しなければなりません。
品質管理は、消費者が安心できるよう食品の安全性を保証するとともに、質の高い製品を安定的に供給することを目的とします。
品質管理を疎かにしたがゆえに、消費者の期待に背くレベルのビールを供給したらどうなるでしょうか?
ひとたび顧客離れが起これば、ブランドはあっという間に求心力を失います。
また、万が一、食品衛生上の問題が起これば、ブルワリー自体の信頼の失墜にもつながります。
厳選した原材料と高い技術力があっても、品質・衛生管理が行き届いていなかったせいで、せっかくのビールを劣化させてしまっては、企業努力も「水の泡」です。
クラフトビールの醸造にあたっては、品質管理を第一に据えなければならないということを、肝に銘じておいてください。
ビールの品質を低下させる主な要因
醸造を開始してから、消費者の手元に届くまでの過程には、おいしいビール作りを邪魔するさまざまな脅威が潜んでいます。
ビールの天敵としては、主に下記が挙げられます。
【ビールを劣化させる要因】
- 酸素
- 雑菌
- 高温
- 紫外線
おいしいビール作りを脅かす厄介な存在の筆頭が、酸素です。
発酵に際して、酸素は酵母のはたらきを助けるため、問題とはなりません。
しかし、発酵完了以降のプロセスにおいて、酸素はビールの風味を損ない、急速に劣化させてしまうのです。
液体中に含まれる酸素を“溶存酸素”とよびますが、ビール中の溶存酸素量をできるだけ低く抑えることが、品質保持の観点から欠かせません。
のちの工程では、できる限りビールと酸素の接触を減らし、専用機器により、溶存酸素量をこまめにチェックするのが肝心です。
また、酵母以外の意図しない雑菌が混入・繁殖すれば、正常な発酵を阻害します。
たとえば、ひとたび乳酸菌が混入・繁殖すれば、酸味が生じたり、白濁したりするという悪影響をもたらします。
大腸菌のような人体に有害な菌に汚染されようものなら、味や見た目の話に留まらず、食品衛生上の由々しき問題へとも発展しかねません。
醸造設備の殺菌・消毒といった衛生管理および、温度管理に細心の注意を払い、微生物対策を徹底してください。
パッケージング完了後も、油断大敵です。
保管時、移送時の温度管理を誤れば、炭酸ガスが抜けてしまうほか、腐敗のリスクも高まります。
そして、紫外線の影響も看過できません。
紫外線に曝露されれば、ビールは変色して、風味も大きく損なわれます。
適切な温度管理は大前提として、遮光性の高い容器を選ぶなどの工夫も必要です。
ビールの品質検査の種類
安全性と品質の高いビールを安定的に供給するうえでは、先述のリスクを排除したうえで、入念な検査を行うことも欠かせません。
ここでは、ビールの品質検査の手法を紹介します。
【ビールの醸造工程における品質検査】
- 微生物検査
- 化学検査
- 官能検査
加熱殺菌を行わないことの多いクラフトビールは、発酵工程で侵入した雑菌が繁殖するリスクと常に隣り合わせです。
それゆえ、菌類を培養、顕微鏡による確認を行う微生物検査は必ず実施しておきたいところです。
微生物検査を実施すれば、雑菌の混入によって味わいが損なわれる懸念が払拭され、食中毒をはじめとする衛生問題に発展するという事態も未然に防げます。
また、原材料由来の有害物質の有無の測定、香味を決める各種成分の分析を行う化学分析も、品質保持の観点から欠かせません。
味や香りを客観的なデータで表すことは、安全性の観点のみならず、品質の標準化や、改善を図るうえでも大いに役立ちます。
もちろん、ビールの品質を最終的に判断するのは、人間の五感です。
官能検査においては、検査員が、ビールの香り、味、色などの項目ごとにテイスティングし、評価を行います。
後述するように、見た目や味わいでビールの品質の劣化有無を判断することもできます。
このように、いくつかの切り口から二重三重の検査を行うことで、ビールの品質と安全性が担保され、味わいも洗練されていくのです。
ビールの劣化度合いを見分ける方法
先述の品質検査のタイミングのみならず、各醸造工程においては、小まめにビールの状態をチェックしておきましょう。
特にビールの品質の劣化は、「色」や「風味」に顕著に表れます。
色や風味が下記のように変化している場合は、品質劣化を疑ってください。
【劣化したビールの特徴】
色・見た目 | ・元の色合いよりも濃い色味に変化している(例:小麦色→茶褐色) ・にごっている(無濾過ビールのにごりを除く) |
---|---|
風味 | ・エステル香(リンゴ、バナナのような酵母由来のフルーティーな香り)が損なわれている ・金属臭が認められる ・強い苦み、えぐみ、または酸味がある ・トマト、ダンボール、はちみつに例えられる風味がする |
上記のような特徴が認められた場合、醸造・出荷工程のいずれかにおいて、ビールが酸素や雑菌、紫外線などに曝露されている可能性が高いといえます。
早急に原因を究明したうえで、適切な対策を講じる必要があります。
醸造設備とビールの品質の関係性
ビール醸造に際しては、発酵タンクをはじめとする、いくつかの大きなタンクが連結された大規模な醸造設備が必要です。
醸造設備やタンクを構成する主な素材には、銅やスチールなどがあり、この材質はビールの風味に大きな影響を与えます。
したがって、ビールの種類、目指す風味によって最適なものを、メーカー・代理店と相談しながら、吟味することが大切です。
ビールの品質保持・衛生面の観点からは、醸造設備の品質も重要です。
設備内部の溶接が丁寧に行われていれば、ミクロ単位の凹凸が少なく、雑菌が入り込んで繁殖する懸念が少なくなります。
同様の理由で、傷つきにくい、耐久性の高い素材で作られた設備を選ぶのも効果的です。
醸造設備を吟味し、入念な品質管理を経て、ビールファン垂涎の絶品クラフトビールを作りましょう。
ビールの品質管理のために、各種検査を実施しよう
今回は、ビールの品質管理方法を紹介しました。
ビールの品質を損なう脅威は、酸素や雑菌、紫外線などです。
品質をチェックするための主な検査としては、微生物検査や化学検査、官能検査などが挙げられます。
こうした品質管理を徹底し、醸造技術を高める企業努力はもちろん、適切な醸造設備選びも、高品質なビールを醸造するために欠かせません。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインは、マイクロブルワリーのビール醸造をサポートしております。
高品質なクラフトビール醸造に欠かせない、各種設備・機器を取り揃えていますので、ビール作りに挑戦しようとお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事の監修者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。