クラフトビールの醸造所で行う必要がある排水処理を徹底解説
- 未分類
- 2024.11.15
- 2024.11.27
クラフトビール造りでは、完成したビール量の15~20倍程度の排水が発生するといわれています。
所在の自治体によっては『水質汚濁防止法排出基準』に基づき、この排水を適切に処理しなければなりません。
今回は、クラフトビールの醸造所で行われる排水処理の概要を詳しく解説します。
クラフトビールの醸造所の立ち上げをお考えの方は、ぜひ本記事の内容をお役立てください。
参照元:東京都環境局「水質汚濁防止法排水基準等について」https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/pollution/regulation/emission_standard/emission_standard
【目次】
- クラフトビールの醸造所で排水処理を適切に行う重要性
- クラフトビールの醸造所で発生する排水の種類
- クラフトビールの醸造所で発生する排水にみられる特性
- クラフトビールの醸造所における排水処理の方法
- クラフトビールの醸造所を立ち上げる際は、適切に排水処理できる設備を整えよう
クラフトビールの醸造所で排水処理を適切に行う重要性
クラフトビール造りにおいて、なぜ適切な排水処理が重要なのでしょうか?
その答えは、水質汚染と設備の劣化の2つを防止することにあります。
クラフトビールの醸造所から発生する排水には、酵母やホップなどから生じた窒素やリンが多く含まれています。
これをそのまま流してしまうと、近隣の河川の水質を汚染し、さらには地域一帯の自然生態系を乱すといった事態を起こしかねません。
また、適切に処理しなかった排水からは硫化水素ガスが発生し、それが水蒸気と反応して硫酸に変化する可能性もあります。
硫酸は金属や有機物に対する腐食性をもつため、軟鉄もしくはコンクリートで排水処理の設備が作られている場合、設備の劣化を招く危険性を孕んでいます。
以上の2つの観点から、クラフトビールの醸造所では、排水処理を適切に行う必要があるのです。
クラフトビールの醸造所で発生する排水の種類
クラフトビールの醸造所で発生する排水は、主にプロセス水と冷却水に分けられます。
以下では、この2種類の排水の概要を紹介します。
プロセス水
プロセス水とは、クラフトビールの製造過程で利用する水のことです。
主にボイラーや鍋、タンクといった生産設備を洗浄する際に使われる水を指します。
その排水には、酵母やホップから生じる窒素やリン、洗浄剤に含まれる化学汚染物質のほか、高濃度の有機物などが含まれています。
冷却水
仕込みの過程で、温度管理のために使われるのが冷却水です。
クラフトビール造りでは、デンプンを発酵可能な糖分に替えるために、麦芽とお湯を混ぜ、麦汁を作る過程があります。
次の麦汁を発酵させる段階では温度を急速に下げる必要があり、その際に冷却水が用いられます。
冷却水には低濃度の金属は混ざっていますが、水質汚染に関わる成分は含まれていません。
クラフトビールの醸造所で発生する排水にみられる特性
クラフトビールの醸造所で生じる排水を、そのまま流してはならないことはおわかりいただけたかと思いますが、具体的に排水はどのような状態になっているのでしょうか。
ここでは、クラフトビールの醸造所で発生する排水にみられる特性を確認していきます。
クラフトビールの醸造所で発生する排水にみられる特性
- TSSレベルが高い
- COD/BODレベルが高い
- pHが低い
- 糖分とアルコールを多く含んでいる
上記のなかでも“TSS”と“COD/BOD”は、聞きなじみのない方が多いでしょう。
TSSは、水中に浮遊している不溶性固形物の重量を測定する指標です。
このレベルが高い環境下では、水中に多くのごみが浮遊しており、水質の状態が芳しくないということがわかります。
他方で、有機物の分解時に消費される酸素の量を測定するのがCOD/BODです。
COD/BODは、河川や湖、海などの水の汚れを測る際にも使われており、この数値の高さをそのまま汚染の度合いの高さとしてみなせます。
クラフトビールの醸造所から発生する排水は、この2つのほか、pHが低く、糖分・アルコールが多く含まれているのが特性として挙げられます。
クラフトビールの醸造所を立ち上げる際には、これらの特性を有する排水を適切に処理できる設備を準備しなければなりません。
クラフトビールの醸造所における排水処理の方法
最後に、クラフトビールの醸造所における排水処理の方法を3つ解説します。
クラフトビールの醸造所における排水処理の方法
- 物理的処理
- 化学的処理
- 生物学的処理
上記の方法から一つを採用する、ないし併用することによって排水の浄化を図ります。
それぞれの特徴や効果を確認していきましょう。
物理的処理
物理的処理とは、“凝集反応”とよばれる、排水中に分散している物質が相互に引き合い、吸着・集合して大きなかたまりとなる反応を利用した排水処理方法のことです。
主に、沈殿や浮上、遠心分離、濾過といった固液分離技術を用いて行われます。
クラフトビール造りで発生する排水においては、目に見えるような大きさのごみを取り除くのに最適です。
ただしこのアプローチのみでは、汚染物質の除去が不完全なので、基本的には複数の処理方法を組み合わせることが求められます。
化学的処理
排水中の汚染物質を化学反応によって分解・除去するのが、化学的処理です。
具体的な方法として、中和処理や凝集沈殿法などが行われます。
中和処理は、酸性またはアルカリ性の排水が中性となるように酸やアルカリを加え、pHを調整して無害化する方法です。
凝集沈殿法では、凝集剤を加えて水中に浮遊している微細な物質を凝集させ、大きな粒子にして沈殿させることで除去します。
こうした化学的処理は、処理速度が速いのが特徴です。
化学反応を活用することによって、大量の汚染物質を短時間で処理できます。
生物学的処理
生物学的処理は、微生物を利用して汚染物質を分解・除去する排水処理です。
その手法は好気性処理と嫌気性処理の2つに分かれますが、クラフトビールの醸造所においては前者を用います。
好気性処理とは、水中の微生物に酸素を与え、有機物を水と二酸化炭素に分解してもらう排水処理方法のことです。
設備内に数億匹にも及ぶ微生物を投入し、その力を活用して汚染物質を無害化します。
この方法は特に、排水に含まれる微生物汚染物質や、化学汚染物質の除去に効果的です。
化学的処理に処理速度は劣るものの、環境に優しく、コストが低い点がメリットに挙げられます。
クラフトビールの醸造所を立ち上げる際は、適切に排水処理できる設備を整えよう
今回は、クラフトビールの醸造所で行われる排水処理の概要を詳しく解説しました。
クラフトビールの醸造所で発生する排水は、水質汚染と設備の劣化の2つを防止する観点から適切に処理することが求められます。
醸造所立ち上げの際は、物理的処理や化学的処理、生物学的処理といった排水処理の方法を用いて、汚染物質を無害化できる設備を整えましょう。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、醸造所設備の設置相談や販売をはじめとして、総合的な醸造所立ち上げコンサルティング事業を行っております。
排水処理に関する行政への申請支援は承っておりませんが、そのほかのことは全力でサポートさせていただきますので、ぜひお問い合わせください。
この記事の監修者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。