ビール充填機の選び方と種類|導入メリットを徹底解説
- 醸造設備
- 2025.09.08
- 2025.09.09

クラフトビールの人気が高まる中、製造設備の選び方はブルワリーの成長に大きく影響します。
とくに「ビール充填機」は、品質を保ちつつ効率的な生産を実現するために重要な設備です。
手作業では難しい、正確な充填や炭酸の保持を機械で行うことで、安定した供給が可能になります。
この記事では、ビール充填機の概要や仕組みから種類まで分かりやすく解説し、導入を検討する際の参考となる情報をまとめます。
ビール充填機の概要
ビール充填機は、ボトルや缶へビールを衛生的かつ正確に注入するための専用設備です。
炭酸を含むビールは酸素との接触や泡立ちに弱く、人の手作業では品質の安定が難しいという課題があります。
こうした問題を解消するため、酸素の混入を避けつつ短時間で大量の充填を実現できる機械が開発されてきました。
ブルワリーの規模にかかわらず導入が進んでおり、鮮度を守りながら出荷の効率化を担っています。
次に、仕組みを理解すると導入の意義がさらに明確になります。
ビール充填機の動作原理
ビール充填機の基本的な仕組みは「酸素を排除すること」と「正確に注入すること」の2点です。
ビールは酸化によって風味が損なわれやすいため、容器の中をあらかじめ二酸化炭素で満たし、酸素をできるだけ取り除いた状態で充填します。
圧力や流量をコントロールすることで炭酸が抜けないようにし、決められた量を正確に注ぐ仕組みです。
充填後はすぐに密封することで、泡立ちやガス抜けを防げます。
方式ごとに細かな違いはありますが、どの方式も「酸素を避けて正確に注ぐ」ことが目的です。
ここからは、代表的な種類を説明します。
ビール充填機の種類
ビール充填機にはいくつかの方式があり、それぞれ炭酸保持力やコスト面で特徴が異なります。
導入の際は自社の規模やスタイルに合わせて選ぶことが大切です。
- 背圧充填機
- 重力式充填機
- 定量充填機
以下では、それぞれの方式の特徴を具体的に紹介します。
背圧充填機
背圧充填機は、容器内部を事前に二酸化炭素で満たし、ビールと同じ圧力をかけてから注入する仕組みです。
この方式によって炭酸が逃げにくく、泡立ちを抑えながら充填が可能です。
ラガーなど炭酸の強いビールや、長期保存を前提とする製品に適しています。
設備の価格はやや高く構造も複雑ですが、品質の安定や鮮度の保持に優れています。
そのため、多くの中〜大規模のブルワリーで導入済みです。炭酸の保持力を重視する場合に選ばれる代表的な機種です。
重力式充填機
重力式充填機は、上部から下部へ重力の力だけで自然にビールを流し込む仕組みです。
構造が単純で導入コストが低いため、小規模ブルワリーやテストバッチ用に採用されることが多く見られます。
炭酸の保持力は背圧式に比べて弱く、長期保存にはあまり向いていませんが、限定醸造や早めに消費されるビールには十分対応できます。
扱いやすく導入しやすいことから、初めて充填機を導入するブルワリーにとって有力な選択肢です。
定量充填機
定量充填機は、容器ごとにあらかじめ設定した量を正確に注入できる方式です。
炭酸の強さやビールのスタイルに関係なく使えるため、品質のばらつきを防げるのが最大の特徴です。
一定量を均一に注入できるので、量が足りない・入れすぎるリスクを減らし、生産効率も向上します。
中規模以上のブルワリーや、さまざまなビアスタイルを扱う醸造所に適しています。
これは、安定した供給と効率性の両方を求める場合に役立つ方式です。
【比較表】ビール充填機の種類と特徴
方式 | 特徴 | 炭酸保持力 | 導入コスト | 適した規模・用途 |
背圧充填機 | 容器内を二酸化炭素で満たし、同圧で注入する方式。ガス抜けを防ぎ長期保存に有利 | ◎ 強い | 高め | 中〜大規模ブルワリー、ラガーなど炭酸強めのビール |
重力式充填機 | 自然流下で充填するシンプル構造。扱いやすく導入しやすい | △ 弱い | 低い | 小規模ブルワリー、限定醸造や短期間消費向け |
定量充填機 | 設定した量を正確に注入可能。スタイルを問わず安定した品質を確保 | ○ 中程度 | 中程度 | 多品種を扱うブルワリー、安定供給を重視する場合 |
ビール充填機を導入するメリット
ビール充填機を導入する最大の利点は、品質保持と効率化を同時に実現できる点です。
- 人手作業に比べてばらつきがなく、安定した製品供給
- 少人数のスタッフでも大規模生産に対応できる
- 正確な充填量を維持して不良品やロスを減らせる
上記の効果が積み重なることでブルワリー全体の生産性が向上し、経営の安定化にも寄与します。
結果として、持続的に安定したビール供給の実現が可能です。
作業時間の短縮は従業員の働きやすさにもつながり、長期的な人材定着に寄与します。
負担が減ることで品質管理にも集中でき、結果として総合的な業務効率の向上につながるのです。
ビール充填機を選ぶ際のポイント
ビール充填機を選ぶ際は、導入コストの安さや表面的な性能だけで判断するのは避けましょう。
自社のビールスタイルや生産規模に合った機種を選ばないと、長期的な運用で問題が生じる可能性もあります。
とくに、次の5つのポイントを重視して検討することが重要です。
- ビアスタイルを考慮して選ぶ
- 生産性の高い製品を選ぶ
- ボトルや缶のサイズを考慮して選ぶ
- 耐久性を考慮して選ぶ
- サポート体制が充実しているメーカーの製品を選ぶ
ここからは、それぞれの選定ポイントを詳しく見ていきます。
ポイント①ビアスタイルを考慮して選ぶ
ビールのスタイルによって、適した充填方式は大きく変わります。
炭酸量が多いラガー系は背圧充填機が適しており、泡立ちを抑えながら充填できます。
一方でエール系や短期間で消費される限定醸造は重力式でも十分対応可能です。
複数スタイルを扱うブルワリーでは、定量充填機を導入することで柔軟に対応できます。
ビアスタイルを無視して設備を選ぶと、品質が安定せず消費者の満足度を損なう可能性があるため、導入前に取り扱い銘柄を整理しておくことが大切です。
ポイント②生産性の高い製品を選ぶ
導入機械の性能は、ブルワリーの生産量に直結します。
1時間あたりの充填本数や、ラインの自動化レベルを比較し、需要に見合った処理能力の製品を選ぶことが重要です。
小規模な醸造所であっても、イベント出荷や繁忙期には大量の注文に対応する必要があります。
生産性が不足すると納期遅延や品質低下を招くため、余裕のある処理能力を備えた設備選定が安心です。
投資時点で数年先の生産計画を見越すことも有効です。
加えて、生産性の高さは拡張性にも影響します。
設備の処理能力に余裕があると、新商品の追加や販路拡大にも柔軟に対応できるため、中長期の成長を見越した選択が大切です。
設備能力に余裕があると、急な受注や繁忙期でも安定した供給を維持できるのが大きな強みです。
ポイント③ボトルや缶のサイズを考慮して選ぶ
ビール充填機を導入する際には、対応できる容器サイズの幅を確認する必要があります。
小瓶から大瓶、缶やペットボトルなど多様な容器に充填する場合、切り替えが簡単な機種を選びましょう。
サイズに対応できない設備を選ぶと、将来の製品展開や新しい販路の開拓に制約が生じます。
近年はクラフトビール市場の拡大により、多様なサイズの需要が高まっているため、柔軟に対応できる設備の検討が望ましいです。
また、消費者ニーズの多様化により、少量瓶や持ち運びやすい小缶などの需要が拡大しています。
多彩なサイズに柔軟に対応できる設備は、市場の変化に素早く対応するための重要な武器です。
多様な容器に対応できれば、自社ブランドの柔軟な展開やコラボ製品開発にも役立ちます。
ポイント④耐久性を考慮して選ぶ
ビール充填機は毎日使うため、耐久性は重要です。
短期的な価格の安さだけで選ぶと、故障や部品交換が増えて、結果的にコストが高くなることもあります。
ステンレス製で錆びにくく、メンテナンスしやすい設計の製品を選ぶと安心です。
導入後も安定して稼働できる設備は、長期的な投資効果を高め、醸造所の運営を支える基盤になります。
とくに中長期的な経営を考えるブルワリーにとって、耐久性の確認は欠かせません。
導入実績の多いメーカーを選ぶことで、故障時の部品供給や技術サポートも受けやすくなります。
メーカーの信頼性も耐久性と同じくらい大切です。
長く使える機材は、廃棄コストや環境への負担も減らせるため、持続可能な運営にも役立ちます。
ポイント⑤サポート体制が充実しているメーカーの製品を選ぶ
設備を選ぶ際には、購入後のサポート体制も重視する必要があります。
トラブルが発生した際に迅速な対応をしてもらえるかどうかは、稼働率を維持するうえで大きな差となります。
海外製の充填機を導入する場合、国内代理店や技術サポートがあるかどうかを確認すると安心です。
導入後の研修や定期点検サービスが整っているメーカーは、設備を長く安定的に利用する助けになります。
価格や性能だけでなく、アフターサポートを含めた総合的な視点で比較しましょう。
【チェックリスト】充填機を選ぶ際の5つの視点
ポイント | 内容の概要 | 判断の目安 |
ビアスタイル | 炭酸量や保存性に応じて方式を選ぶ | 炭酸が強い場合は背圧式が有利 |
生産性 | 処理能力と自動化レベルを確認 | 1時間あたりの充填本数を比較 |
サイズ対応 | 多様なボトルや缶に対応できるか | 将来の製品展開を見据えて選定 |
耐久性 | 素材や設計の信頼性を確認 | ステンレス製や実績あるメーカー |
サポート | 導入後の支援体制を確認 | 国内代理店や定期点検体制の有無 |
まとめ
ビール充填機は、品質を守りながら効率的に製造を進めるために欠かせない設備です。
背圧式・重力式・定量式の3種類にはそれぞれ特徴があり、ブルワリーの規模や扱うビールのスタイルによって最適な機械は異なります。
導入することで作業効率が上がり、安定した生産が可能になります。
選ぶ際は、ビアスタイル・生産性・容器サイズ・耐久性・サポート体制の5つのポイントを意識して検討しましょう。
上記を考慮して選ぶことで、長期的に安定した製造体制を築けます。
スペントグレインでは、ブルワリーの規模や目的に合わせた充填機の選定をサポートし、現役醸造家の知見を活かして提案しています。
導入を検討されている方はぜひご相談ください。
この記事の監修者

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。