ナノブルワリーとは?その特徴と開業するための準備を解説
- 開業ガイド
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さまざまな味わいや香りを楽しめるクラフトビールは、世界的に人気があります。
クラフトビールに魅了された方のなかには、「自分も醸造所を開業してビールを作りたい!」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで今回は、個人でも経営できるナノブルワリーの概要を、特徴や開業までに必要な準備とともに解説します。
「クラフトビールが好きだから仕事にしたい」とお考えの事業者さまは、ぜひご覧ください。
【目次】
- ナノブルワリーとはどういうもの?
- ナノブルワリーが誕生した背景
- ナノブルワリーの特徴
- ナノブルワリーを開業するメリット
- ナノブルワリーを開業するための準備
- 体験型のナノブルワリーのビジネスモデル
- ナノブルワリーは小規模だからこそ、消費者に刺さる唯一無二のビールが醸造できる
ナノブルワリーとはどういうもの?
3樽以下のビールを生産する、非常に小さな醸造所のことをナノブルワリーといいます。
一般的に、小さな醸造所は「マイクロブルワリー」とよばれますが、ナノブルワリーは、それよりもさらに、こぢんまりとした規模感です。
ナノブルワリーは、個人や家族でも経営できます。
小規模ゆえに、ビールの生産量が限られていますから、「ビールを作りたい!」という個人も、比較的簡単に事業を始められるというわけです。
また、味わいや香りなど、作り手のこだわりを詰め込んだビールはもちろん、消費者のニーズを反映したビールも醸造できます。
個人経営かつ少量の生産により、消費者の「こういうビールが飲みたい!」という想いに、柔軟に応えられるからです。
ナノブルワリーでは、常に「唯一無二のビール」を生み出せることから、飲食店の経営者やビール愛好家だけではなく、一般の消費者の心までもグッとつかめるのです。
ナノブルワリーが誕生した背景
日本国内で、ナノブルワリーを含む小さな醸造所が誕生した背景には、1994年の酒税法改正があります。
改正前は、ビールの年間最低製造数量が2,000kLと定められており、個人ではビールを作ることが到底できませんでした。
しかし、法改正により年間最低製造数量が60kLに引き下げられ、大規模な醸造設備をもたなくても、ビールを作れるようになったのです。
これがトリガーとなり、次第に全国各地で、ナノブルワリーがオープンしていきました。
そこで作られるビールは、独特の風味を楽しめるとして多くの人々を虜にし、今なお愛されています。
ナノブルワリーの特徴
ナノブルワリーの特徴は、なんといっても、常に消費者のニーズに応えながら経営できるところです。
規模が小さいぶん、作り手と消費者の距離が近く、直接的に関わる機会が多いといえます。
たとえば、醸造所に飲食店を併設すると、提供したビールの感想をその場でもらえたり、会話のなかから消費者のニーズを聞き出したりすることができます。
そのほかにも、地元企業とのコラボレーションや醸造所ツアーなどの、ユニークなビジネスを通じて、人脈を広げることもできるでしょう。
消費者の声に耳を傾けて経営を続ければ、地域コミュニティの一部として、長く人気を博すナノブルワリーとなること間違いなしです。
ナノブルワリーを開業するメリット
ナノブルワリーを開業する利点は、いくつかあります。
その一例を、以下にまとめました。
【ナノブルワリーを開業するメリット】
- 高品質のビールを生産できる
- 自分だけのブランドを確立できる
- 地域が元気になる
- 好きをビジネスにできる
- 利益率が高い
先ほどもお話しした通り、ナノブルワリーは一人で経営できるスケールの醸造所です。
ですから、自分のこだわりを詰め込んだクラフトビールを醸造し、楽しみながらビジネスをスタートできるはずです。
さらに、ナノブルワリーは、地域を元気にするビジネスという側面もあります。
地域で採れた原材料を使用してビールを醸造したり、その土地の特色を織り交ぜた商品名をつけたりすれば、クラフトビールを通じて地域の魅力を存分に伝えられます。
縛りのないクラフトビールだからこそ、「自分の住んでいる地域を盛り上げたい」という想いを叶えられるというわけです。
ナノブルワリーを開業するための準備
ご自身が醸造したクラフトビールにファンがつくことに、胸を躍らせている方もいらっしゃるでしょう。
いざ「ナノブルワリーを開業しよう!」と思ったときには、どのような準備が必要なのでしょうか。
目標とビジョンを決める
ナノブルワリー開業にあたっては、「どのようなビールを作りたいのか」「誰に届けたいのか」といった目標やビジョンの明確化が重要です。
曖昧なままだと、設備や販売方法の選択に迷いが生じてしまいます。
「地域密着で観光客向けの限定ビールを提供したい」のか「地元の食材が使用されたクラフトビールを定番商品として広く流通させたい」のかによって、必要な醸造量や販売チャネルが大きく異なります。
ビジョンの明確化で、従業員や協力業者とも目的を共有でき、事業全体の方向性を一貫させやすくなるでしょう。
開業初期は試行錯誤がつきものですが、最初に掲げたビジョンがあれば、軸をぶらさずに進められます。
開業する地域の法律や特性を知る
ナノブルワリーを立ち上げる際は、地域ごとに異なる酒税法や営業許可のルールを事前に把握することが不可欠です。
日本では、年間の製造量が少ない場合でも酒税法に基づく免許が必要で、違反すると営業停止になるリスクがあります。
地域によっては「観光産業との連携支援制度」や「地場産品活用の助成金」などが利用でき、活用すれば初期投資を抑えることも可能です。
さらに、地域の気候や水質、消費者の好みも製造や販売に影響します。
たとえば、水が軟水の地域ではフルーティーで爽やかなエール系ビールが好まれやすいでしょう。
法律や地域の特性を事前に調べておくことが、長く愛されるブルワリー経営の基盤となります。
必要な免許や許認可を取得する
日本国内ではクラフトビールに限らず、酒類を醸造する際は、必ず「酒類製造免許」を取得しなければなりません。
酒類製造免許は、地域を管轄する税務署に申請して取得します。
税務署に申請してから審査が完了するまでは、2~3か月かかるのが一般的です。
そのため、事業をスムーズに進められるように、ナノブルワリーを開業したい時期に合わせて申請しておきましょう。
また、ナノブルワリーに飲食店を併設する場合は、「営業許可」の取得も不可欠です。
クラフトビールのビジネスを勉強する
「経営方法」を学ぶことが、クラフトビールのビジネスを成功させる鍵です。
おいしいビールを醸造する技術や知識を習得するだけではなく、ナノブルワリーの経営でも必要となるビジネスの基本は、きちんと身につけておきたいところです。
独学にとどまらず、経営者セミナーにも参加してみてくださいね。
また、愛着をもってビジネスを進めるために、ラベルのデザインや店内のレイアウトなどに関しても、プラスアルファで学ぶとよいでしょう。
事業計画を策定する
目標や地域の特性が決まったら、次は事業計画を具体的にまとめる段階です。
事業計画には「必要な設備投資の金額」「仕入れコスト」「販売価格の設定」「収支シミュレーション」などを盛り込むことが大切です。
資金調達方法についても、自己資金だけでなく、金融機関からの融資やクラウドファンディングを組み合わせるとよいでしょう。
ナノブルワリーは規模が小さいため、投資額は大規模ブルワリーより抑えられますが、収益化のためには早期に安定した販売ルートを確保する必要があります。
事業計画を文書化しておくことで、将来の出資者や取引先からの信頼も得やすくなります。
開業準備の中でも、事業計画の策定は重要なステップです。
ナノブルワリーに必要な設備
ナノブルワリーを開業するには、基本的な醸造設備を揃えることが必要です。
設備は一見複雑そうに見えますが、大きく分けると「仕込み」「発酵」「熟成」「貯蔵・充填」の4つの工程ごとに対応する機材が必要です。
以下に、代表的な設備をまとめました。
工程 | 設備名称 | 役割 |
仕込み | ブリューケトル・マッシュタン | 麦芽を糖化し、ビールのベースとなる麦汁を作る |
発酵 | 発酵タンク | 酵母を加えてアルコール発酵を行う |
熟成 | コンディショニングタンク | 味を落ち着かせ、風味を整える |
貯蔵・充填 | ケグ・ボトリングマシン | 完成したビールを保存・出荷用に詰め替える |
そのほか | 冷却装置・清浄システム | 温度管理や衛生管理に必須 |
これらの設備をすべて揃えれば、小規模でも本格的なクラフトビールを製造できます。
冷却設備や衛生管理装置は、味の安定性や品質の維持に直結するため、予算を確保して導入することをおすすめします。
ナノブルワリーの設備を選ぶ際のポイント
ナノブルワリーの設備にはさまざまな種類があり、選び方を間違えると余計なコストがかかったり、効率が下がったりすることがあります。
設備を選ぶ際は、次の4つのポイントを意識することが大切です。
- ポイント①ビールの製造量を明確にする
- ポイント②醸造所のスペースを確認する
- ポイント③予算を考慮する
- ポイント④設備業者の評判を確認する
順に解説していきましょう。
ポイント①ビールの製造量を明確にする
設備選びの出発点は「どのくらいの量を生産するか」を決めることです。
製造量が決まれば、必要なタンクの容量や仕込み回数の目安が定まります。
年間数千リットル規模であれば、100L〜300Lクラスの設備でも十分対応できますが、飲食店や観光施設に供給するのであれば500L以上の設備を導入する必要が出てきます。
製造量はランニングコストや酒税の申告義務にも影響するため、開業前に想定販売量を具体的に設定しておくことが重要です。
ポイント②醸造所のスペースを確認する
ナノブルワリーは小規模なため、省スペースでの設計が必要です。
醸造タンクや配管設備は大きいため、設置場所を間違えると作業効率が下がるだけでなく、消防や保健所の基準を満たせなくなることもあります。
導入前に図面を作成し、タンクの動線や冷却装置の配置を確認しておきましょう。
観光施設や飲食店と併設する場合は、見学者に醸造の様子を見せると集客効果が高まります。
スペース設計は単なる設備の配置だけでなく、ビジネスモデル全体にも関わる大切な要素です。
ポイント③予算を考慮する
ナノブルワリーの設備費用は、規模によって数百万円から数千万円まで幅があります。
初期投資を抑えたい場合は、中古設備やリースを利用する方法もありますが、品質やメンテナンスのしやすさをよく確認する必要があります。
発酵タンクや冷却設備は品質に大きく影響するため、新品を導入したほうが結果的に安定した経営につながることも多いです。
設備購入後には保守点検費や消耗品費もかかるため、予算は初期費用だけでなく維持費も含めて計算しましょう。
ポイント④設備業者の評判を確認する
設備は導入するだけでなく、メンテナンスやトラブル対応が必要です。
そのため、購入前に設備業者の実績やアフターサポート体制を調べておきましょう。
口コミや導入事例を参考にすれば、使い勝手や耐久性が分かります。
海外メーカーから設備を輸入する場合は、国内代理店がサポートしてくれるかどうかも重要なポイントです。
業者の評判を確認しておくことで、長く安心してブルワリーを運営できます。
体験型のナノブルワリーのビジネスモデル
ナノブルワリーのなかには、一般の参加者がビールの醸造を体験できる施設があることをご存じでしょうか。
たとえば、東京都中野区にある「ZERO LABO」では、作り手が「消費者の作りたい味わい」を実現するレシピを提案してくれるので、誰でも唯一無二のビールを作れます。
消費者が楽しいひとときを過ごせる空間を提供し、おいしいクラフトビールが完成すれば、「ご自身のファンの獲得」につながるかもしれません。
さらに、体験型のナノブルワリーでは、原材料を選ぶ手伝いやレシピの提案などを通じて、消費者と積極的にコミュニケーションをとることができます。
「話をするのが好き」「クラフトビールの良さをもっと広めたい」という方には、ぴったりのビジネスモデルだといえます。
ナノブルワリーは小規模だからこそ、消費者に刺さる唯一無二のビールが醸造できる
今回は、ナノブルワリーの概要を、特徴や開業準備のポイントとともに解説しました。
ナノブルワリーとは、非常に小さな醸造所のことです。
規模が小さいぶん、消費者のニーズに応えながら経営できるのが特徴です。
また、ナノブルワリーをオープンする際は、開業する地域の事前調査や必要な免許の取得のほか、経営方法を学ぶことも欠かせません。
マイクロブルワリー、クラフトビール開業支援のスペントグレインでは、醸造所を開業したい事業者さまに向けて、醸造設備の提供から設置工事まで、すべてのスタートアップをサポートしております。
あなたの作る「おいしい」を多くの方に届けるために、コンサルティングも実施しています。
こだわりのクラフトビールを広めたい方は、ぜひご相談ください。
この記事の監修者

株式会社スペントグレイン
マーケティング担当者
兼 醸造アドバイザー/経営コンサルタント
<略歴>
大手経営コンサルティング会社へ就職し、地域経済の活性化に貢献するプロジェクトに多く携わり、食品やアルコールを通じた地域振興・施設開発を専門にコンサルティングを行う。経営アドバイザー・醸造アドバイザーとして地域密着型のクラフトビール事業の立ち上げから設備導入、経営戦略までを一貫して支援し、地元の特産品を活かしたビールづくりにも取り組んでいる。
<監修者から>
ビールの品質は、技術は当然のことながら、経営の安定からも生まれます。持続可能で収益性の高い事業運営を支援しながら、ビールの味わいを最大限に引き出すことが私の使命です。 良い設備がなければ、良いビールは生まれません。しかし、経営が安定してこそ、長期的に持続可能なビール文化を築けるのです。